キャリア30年のプロフェッショナルが選んだインドという選択、インドという人生


インドで働く人インタビューシリーズ、今回は30年弱大企業で経理・財務畑で活躍された後、インド転職を果たした関さんにお話を伺いました。前職でインド駐在時に帰任命令が出た時の関さんの思いは…?

CONTENTS

30年積み重ねてきたキャリア

今回初めてのご転職でしたが、前職では何をされておりましたか?

今まで一貫して経理・財務職です。前職では大手メーカーで経理・財務を中心に30年弱、様々な事業所で仕事をしてきました。学生時代は九州大学の経営学部で会計を学んでいたのですが、新卒の就職活動時には、特に経理職に強いこだわりがあった訳ではなかったです。面接の際、どちらかというと営業より経理向きだといわれていましたし、入社後に同じ大学の先輩からも同様のアドバイスを頂いたので、経理職に希望を出し、この道に進みました。

本社での在籍期間が長く、本社では資金調達・運用・入出金など資金管理を主に担っていました。経理部門の役割というのはひとつひとつの業務をいかに必要な手順を踏んできちんとやるかということが大切で、スキップすると後々困るような煩雑で細かい業務が多々あります。本社以外では、小さな事業所でそういったプロセスを作ったり、大きな金額の資金を動かしたり、工場の再編の際に混乱が起きないようにマネジメントしたりと、関わった事業所それぞれに思い出があります。

現在のお仕事についてお聞かせください!

転職を機に、現在は大手商社が出資している工場で同じく経理GMを勤めております。法務部門も見ながら、7名のスタッフを束ねる立場です。経理業務は汎用性が高い職種なので、業種は変わりましたが特に戸惑いもなく、前職の経験は活かせていますね。ただ、どういう流れで契約が決まり、どういう流れで物が流通し、その間どういうトラブルが起こりやすいかを理解していると更に仕事がしやすいので、今は業界の商習慣などを社長や営業・設計の方から日々学んでいるところです。あとは、前の企業で勤めていた頃の価値観を引きずらないよう、企業文化の理解に努めています。

 


欧米赴任から一転、インド赴任を命じられて

転職直前、前職でもインドで働かれていましたが、それまで海外でのご駐在経験はおありでしたか?

30歳すぎのときにイギリスで研修生として、また30代後半のときにアメリカで財務マネージャーとして海外で働く機会がありました。その後、2013年にインドに赴任。元々大きなプロジェクトの組織の経理・総務機能の立ち上げがミッションでしたが、赴任時なかなか受注に至らず、結局は部門長として主に組織設計・人材管理を担っていました。

いわゆる欧米での駐在を経て、インド赴任を任命されたときはどんなお気持ちでしたか?

内示が出た際はインドという国を全く知らなかったため、ポジティブでもネガティブでもなくニュートラルな気持ちでした。大きな企業で働く以上、会社の内示に対して拒否をするという権利はなかったので、「あ、インドなのか」というような気持ちでしたね。内示を受けたタイミングでは日本で小さな事業所の副部長の役職で働いていましたが処遇と業務内容が見合わない状態が続いていたので、同じ処遇でのインドでの機会は、ありがたい話だな、と思っていました。

インド渡航前に何かご準備されましたか?

インドの予備知識があまりなかったので、どういった国なのか相当調べましたね。これから身を置いて働く国のことは、ある程度知っておくべきと思いますが、アメリカの歴史などは学生時代に世界史を学ぶ機会がある一方、インドのことは知る機会は自分には今までありませんでした。複雑な成り立ちの国ですし、多様な価値観が存在しているのがインドです。特に日本の大きな会社で働いている人は、「日本人はみんな同じ価値観、考え方を持っている」という前提が先行しがちですが、そうではない国で働く以上、歴史・宗教・民族ごとの言葉の違い、またカーストがどのようにできていったかなど、多様な価値観が生まれていった背景を理解できていると働き出したときにびっくりすることは軽減できます。とはいえ、簡単に「彼はイスラム教徒だからこうである」とスタンダライズするのも危険です。彼らの価値観もどんどん変化しているものなので、目の前の方ときちんと対話をすることが非常に重要ですね。

周りがびっくりする大きな決断に見えるが、自分にとっては自然だった

30年弱も大企業でキャリアを積まれていた関さんが転職に踏み切ったのは、何が理由だったのでしょうか?

仕事面ではこのままでは望まない仕事が増えて、精神的に参ってしまう可能性があると判断したのが理由です。だんだん上に行くに従いポストが減るので、なかなか自分の望む仕事ができなくなります。課長クラスの時には色々とあった可能性が、部長クラスになると突如減ってしまい限定的になります。インド赴任後約2年経った頃、やっと受注が取れそうになり、ようやく元々のミッションに取り組めるという矢先、帰任の辞令がありました。折角今まで積みあげてきたインドに関する調査を中心とした下準備を活かすことができなくなってしまった状況に落胆しましたし、日本に戻ってからの仕事も転勤を伴うもので魅力的とは思えなかったため、そろそろ潮時かなと思ったのが本音です。もちろん、帰任命令が撤回されてインドで継続して役割を果たす、あるいは別の部署ででもインドに残れるのであれば、転職はこのタイミングでは考えてなかったかもしれません。自分としてもインドに残れるよう掛け合ったのですが、それは叶いませんでした。これは会社員である以上、辞令に従うのは義務であり、やむを得ないことです。

また生活面でも、日本では自分の趣味などに没頭する機会がなかったものの、インドでは趣味とそれを一緒に楽しむ仲間ができ、自分の人生の楽しみを見つけたように思います。日本に戻っても色々なしがらみがあり、自分の時間を持てないまま疲弊してしまうとも感じていたので、インドでの生活を続けたいと考えました。

仕事面でも生活面でも、インドで残ってやっていきたいという気持ちが強かったので、前職ではインドに残れないとわかった瞬間から、現地採用でインドで転職するという選択が頭に浮かびましたね。大企業に勤めていたため待遇は良かったものの、転職することで得るものはお金には代えがたい価値があると思い、特に転職に対する恐怖心はなかったです

部長クラスのインド転職は現時点ではまだまだマイナー

面接を通して、現地採用のスタッフに対して企業側の期待はどのようにお感じになりましたか?

色々な企業で面接の機会を頂きましたが、日本人の部長クラスを現地採用することに対して準備ができていない企業はまだまだ多いと感じました。特に自分のような経理部長のポジションでは本社からの出向を検討することが多く、募集がたくさんあるようには思えなかったですね。
そんな中、現職とご縁があり感謝しています。前職でも様々な経験を積んでいたので特に入社後の戸惑いはありませんでした。同様に現職も親会社は大企業ですし、やはり文化的な面も似ていると感じます。

現職における自分の立場で感じること

ただ、現地採用の部長というポストで入社しておりますので、駐在員でもなく、とはいえ一般的な現地採用でもなく、ということで中途半端な立場であるということは否めません。一番感じるのはやはり本社からの情報が入りにくいという点。本社の基準や組織がわからないため問い合わせ先が判らない、出向元に知り合いがほとんどいないことにより、情報のソース元が限られています。駐在員のみに本社から連絡が入ることもありますしね。経理・総務は日本の基準とシンクロさせながら業務をしなければなりませんし、情報は非常に重要なため、やはりキャッチアップには多少の時間が必要でした。今は、地域統括会社や本社の主幹部を情報ソースとしたり、前任に連絡したりと工夫しながら過ごしています。

この点では、現職の企業でも決して準備が整っていたかといわれればそうでない点もあったと言えますね。とはいえ、個人的にはそれを問題視している訳ではなく、自分の前任が駐在員でしたし、現在も職場では現地採用のスタッフは私1名のみなので、今後も現地採用スタッフの採用を検討するにあたり、自分が変えていければいいなと思っています。実際、代表の方をはじめ、職場では皆さんサポートしてくださいますし、能力を認めてもらっていると実感しているので非常に働きやすいです。現地採用で働いている以上、自分の目を向ける先も本社ではなくここインド法人のみになります。しがらみなく、この会社を良くしたいと思っている気持ちを持てることで日本人からもインド人からも信頼感・安心感を得ていると感じます。

長い歴史を持つインドの文化を尊重することから全ては始まる

インドで働く上で大事にしていることはありますか?

やはりインドの文化をきちんと尊重することですね。先ほど赴任前に色々とインドについて学んでから渡航したという話をしましたが、来てからより顕著に気づいたことが多々あります。

まず一般的には日本人として気遣ってあげるべきことは、食事です。ベジタリアンが非常に多いですし、お酒を飲まない方も多い。自覚していないですが、我々日本人は「スーパーノンベジ」の民族です。ちょっとしたお菓子のお土産を用意する際にも、それが本当にベジタリアンでも食べれるものかなど気を配ってあげないと、そのことで傷ついてしまう方も少なくありません。また、元々職種が厳密に分かれているので従業員に掃除を強要したりは決してすべきでないです。インドは職種を分けることで全てのひとに仕事があり食べていけるようにするという知恵で社会が成り立っているので、もし自分の仕事以外のことを頼むとすると、「自分の仕事でない」という気持ちだけでなく「他人の仕事を奪ってしまう」とい気持ちを引き起こすことになります。前職でも、通常コピーをするのは派遣社員のオフィスボーイの役割ですが、それをジュニアレベルの正社員に頼んで揉めることがありました。インド人が日本人ほど柔軟に何でも対応できないことを、インド人は言うことを聞かない、能力が低いと考えてしまうのは短絡的で、こういった背景の理解は必要ですね。

相手をリスペクトすべきは欧米でもインドでも同じ

日本人は自然と、欧米諸国に対して敬意を持って接することができるのですが、残念ながら同じような態度でインドに接することができてないようにお見受けすることがあります。きちんとインドについて理解を深めると、いかに歴史が長く、独自の文化を形成して来たのかが分かります。元々強い文化がある国を否定することはやはり許されないことなのです。実際、今度成長期の日本は非常に苦労しながら、腰を低くアメリカから多くのことを学んで今に至りました。当時のように相手をリスペクトする心を持つことで、仕事は円滑に進めることができます。とはいえ、インドではもちろん業務のやり方は改善できる点も多数あります。より業務を改善して良くしていくことと、文化を尊重することは切り離して考えるべきです。文化を尊重するというのは、先ほどお伝えしたような仕事の役割を明確にするであったり、大切なお祭りの日や家族に何かがあった際の休暇取得を承認したりすることだと私は考えています。

今後のキャリアはどのようにお考えでしょうか?

働き方は変わるかもしれないがインドで頑張りたい

しばらくはインドで頑張っていこうと思っています。あと5、6年したらそれなりの年齢ですので契約社員として働いたり出来ればとも思っております。そのときの状況に応じて検討していきたいので何とも言えませんが。いずれにしても働き方は変わるにせよ、インドにいようとは思っています。日本で働くにしても東京以外で考えたいですね(笑)

自分の武器さえあれば、自分も企業も成長できるのがインド

関さんの考えるインドの魅力は何ですか?

インドという国は理解が進むにつれて色々な側面が見えてくる国です。自分の住んでいるデリーに関していえば、人は温かいですね。何か困ったら、お金目当てでなくボランティアで助けてくれます。多様性を今までずっと受け入れてきた街なので強制感も少なく、「こうあるべき」という決められた価値観に縛られないです。デリーのような都会に住むにあたっては自由でいれると感じています。

ビジネスの面に関して、ご意見お願いします!

もちろんインドは魅力的なマーケットであるのは間違いないですが、現時点では日系企業は、折角質のいいモノを作っているのに苦戦しています。やはりインド文化を捉えられていないのが一因と見ています。日系企業の中でもマルチスズキが成功しているのはマーケットのニーズをきちんと汲み、求められているものを提供できているからです。ダイキンさんも頑張っていますよね。日本のエアコンは空気が人に直接当たらないように出来ていますが、インドはあえてあたるように出来ています。それ以上に過酷な環境で使うので耐久性もしっかりしていますしね。日系と比べるとそういった取り組みは韓国企業の方が進んでいます。例えば、鍵のかけられる冷蔵庫など。しかも、競合が同じことをしていないというのが条件になります。インドはインド人・インド企業を外国人・外資企業より好むので、そのプロダクトがデファクトになるよう、市場の求めるもので、且つ外資企業はもちろんインド企業の競合が作っていないものを生み出していくことが重要です。インドにはジュガード(斬新な工夫による応急処置を指します。有名な事例だと、電気洗濯機でラッシーをかき混ぜる、電気の要らない水冷冷蔵庫、足漕ぎ洗濯機などはジュガードイノベーションの成功事例と言えます。)という文化があります。色々な工夫をしながら物事を解決するというその姿勢を日系企業のあり方にうまく組み合わせて、ビジネスが出来ると道は開けると思います。日本でうまくいったやり方が必ずインドでもうまくいくとは限らないので、インド人と同じ視線でインドのマーケットに合わせたやり方をすれば、個人としても企業としても道は開けると感じています。

インド人の日本人に対するイメージは、今後数年で固まっていく

今時点ではインド人は日本人に対して、特に良くも悪くもないニュートラルなイメージを持っています。今後日系企業が増えてきて、駐在員がどのように振舞うかによって数年以内にそのイメージが確定するように思います。日本人は、利己的な利益優先の狩猟民族型より、皆に利益があるように一緒にやっていこうというような農耕民族的なカルチャーがあるのでそういうスタンスでやっていけたら、長くインド市場で受け入れてもらえ、いい関係が築けるのではないでしょうか。

インドを目指す方に一言お願いします。

私と同世代の方(50代の方)であれば、待遇面が転職でよくなることはまれなので、リストラとかがない限り転職を考える方は少ないと思いますが、転職するしないにかかわらず、将来自分がどう生きたいか、現在自分が持っているスキルは何なのかをきちんと考えておいた方がいいと思います。この時代リストラはいつ起こるかわからないので、もし万が一自分の身に起こったときに、何も考えていないとどうすればいいか判断できませんし、その時になって転職を考えたとしても、市場で通用する武器を持っている人材でないと、転職先すらありません。

収入を一番重きに置く方は転職より現職に留まることがいいのかもしれません。もし、やりたい仕事が他に明確にあったり、生活面でより心の平安を得たかったりと収入以上に重要視したいものがあれば、転職はひとつの選択です。自分のやりたい仕事ができるのであれば、多少収入が落ちてもそのキャリアに満足できるものだと思います。実際、私の場合今の仕事はとても充実しています。法務部門に関しては専門外ですが、それも含めこれまでの経験を活かして会社に貢献できていると思えることは充実感に繋がっていますね。

若い世代は、英語はもちろんですが、現地語を学ぶことをお薦めします。英語が通じるといっても、全人口の1割の人しか英語が話せないのが実情です。ヒンディーはインド人の4割の方が使う言語なので少しでも理解できるとやはり世界が広がります。ドイツに行ってドイツ語、フランスに行ってフランス語、メキシコに行ってスペイン語を学ばない人はいないと思います。職場では工場のワーカーレベルの方はほとんど英語が話せませんし、生活においてもリキシャに乗る場合や市場での買い物をする際には、英語が通じないこともあります。韓国企業は駐在員に語学学校の費用まで出してヒンディーを学ばせています。言葉を学ぶということはその国を知ること、文化を尊重することに繋がりますからね。

また世代問わず、自分の武器がない人には転職機会はあまりありません。経理のスペシャリストであったり、エンジニアであれば何かの技術のスペシャリストであったり、何でもいいのですが何か自分でこれは自慢できるというスキルを持っていることが大事です。そうでないと、ローカルスタッフからも認めてもらえないと思います。ですので、若い世代の方においては、多少なりとも日本で経験を積み、積み重ねたものが武器となったタイミングでの転職をお薦めします。30になる前はいくらでもやり直しもききますので、まずはインドに飛び込んでスキルアップして、更に武器を増やせたらいいですね。もちろん、年齢が上がればその武器が1つでなく、複数持っていないといけません。30代、40代は管理職になっていきますから、ローカルスタッフと同じ立場というよりは上に立つポジションに就くことになります。ですので、インド人のスタッフも認めてくれるような、経験に基づいた明確な武器を持ってさえいればチャンスはたくさんあるものと思いますよ。


編集後記:
一貫して関さんからのメッセージは、インドに対して理解とリスペクトを深めることと感じました。普通の人が恐れてしまうような大企業からの転職。それでも前職より更に生き生きとご活躍されている姿をみて、自分の武器を磨くことで選択肢が広がっていくことを学んだ大変貴重なお時間でした!