インドとASEANインフラ比較シリーズⅠ ~道路編~

インドってどうせそんなインフラ整ってないでしょ?

インドに実際に来る前に私が持っていたイメージです。実際に見たわけでもないのに。「どうせ」という気持ちは一体どこから来たんでしょうか。日本より開発が進んでいないから?カレーのイメージが強いから?なぜかははっきりしませんが、見てもいないのに勝手そう思い込んでいました。でも実際に来てみると、地域差があるものの道路は舗装されており、電気もガスもあります。もちろん電話もつながるし、街にはきれいなメトロが颯爽と駆け抜けています。その光景を目にした時、「どうせ」と見切りをつけていた自分がすごく恥ずかしく感じました。

皆さんもここまでとは言わないまでも、インドのインフラに対して多少マイナスのイメージを持っているのではないでしょうか。しかし自分の目で見ていないのに、勝手にそう判断してしまうのはすごくもったいないことです。なので今から飛行機で10時間かけてインドに来て、自分の目で確かめてみて下さい。。。と口で言うのは簡単ですがそれは現実的ではありませんよね。そこで実態を皆さんに見てもらうために、インドのインフラを紹介するシリーズを始めます。しかしそのシリーズ、ただインドの現状のみを紹介したところで、イメージすることは難しいと思い、経済発展著しいASEAN諸国の現状も合わせて紹介します。つまりASEANとインドのインフラを比較してインドのインフラの現状をより詳しく知ろうシリーズということです!

はじめに


記念すべき1回目は道路編です。生活に欠かせない道路というインフラ。道路にはおもに3つの役割があるといわれています。交通機能土地利用機能空間機能これら3つです。
  • 交通機能    人やモノが移動できるようにする機能。
  • 土地利用機能  市街地形成に影響を与える機能。生活基盤充実や土地利用促進などの効果。
  • 空間機能    存在自体の価値。下水や電話線などの収容空間としての機能もそのうちの1つ。
つまり道路とはただ人や物を移動させる際に使う単なる道ではなく、人々の生活の基盤となる役割を果たしているのです。そんな道路という経済発展を下支えする存在を今回は取り上げます。

 

インドの道路整備

モータリゼーション化が進むインド

インドの道路総延長は世界第2位の523万kmで、広大な国土を誇り発展著しい3位中国の410万kmに差をつけています。インドの面積は約328万km²なので、単純計算で1km²あたり1.7kmの道路が敷設されている計算になります。

ここまで道路造設が進んでいる理由に、モータリゼーション化が挙げられます。ただモータリゼーションといっても基準があり、インドはまだプレ・モータリゼーションの段階です。まずモータリゼーションとは、自動車が市民生活の中に入り込んできている文化的・社会的状態(コトバンクより)のことです。簡単に言うと市民がマイカーを持つようになってきたということです。1000人当たりの自動車保有台数が61台を超えると、モータリゼーション期に入るという指標があり、インドはその数値が20台(2016年)となっているので、プレの段階ということです。ですが下の表をご覧下さい。インド、自動車生産・販売台数の推移のグラフです。年を追うごとにオレンジ色の線が示す、自動車の販売台数が増加していることが分かると思います。このことから車という存在が市民に浸透してきており、今後誰もが当たり前に車を持つ時代が来ると考えます。

(参考:https://www.fourin.jp/report/IndianAuto_and_AP_Industry2016.html)

 

走る車はあるけれど、走れる道がなければ意味がありませんよね。さらに21世紀初頭からの自動車保有台数の増加に伴い交通渋滞が深刻な問題となり、インド全体の75%の道路が1車線、もしくは2車線であることもその問題に拍車を掛けました。そこで政府は1998年に国道整備計画(後述)を導入したのを皮切りに、道路整備に力を入れてきました。その取り組みもあり渋滞はかなり緩和され、道路総延長は世界第2位を誇っています。また国際統計格付けセンターによる「輸送関連インフラの質ランキング」においても153か国中54位にランクするという結果も出ています。(日本は9位)

実際にデリーやグルガオンなどの都市部に関していえば、日本の道路と比べても大差ないほど整備が進んでいます。渋滞に関しても私の経験上、平日は基本的にすんなり通行できますし、週末も渋滞は起きますが、そこまで大規模なものではなく30分ほどで抜けられるものです。

道路造設はこれからも続くと考えられます。国際エネルギー機関は、インドにおける1000人あたりの自動車保有台数が、2016年の20台から2040年には8.8倍の175台に達すると予測をしています。つまり上のグラフの点線の部分が示すとおり、これからも販売台数は増えていくだろうという予測です。2040年には人口が16億を超えると予想され、かつアメリカのGDPを抜くとされていること考えても、引き続き道路造設は進むと考えます。

 

国道整備計画とは

政府が積極的に道路造設を行なっていることを紹介しましたが、その1つに国道整備計画があります。増え続ける道路交通に対応するため約 45,000km の近代的な道路網を整備するとする計画です。この計画は主に2つのプロジェクトがあります。インドの主要4都市を結ぶ黄金の四角形、ミャンマーとの国境あたりから西へと伸びていく回廊と、南北を縦断する回廊、これらをあわせた南北・東西回廊、これらを造築することです。この計画は1998年から始動したものなのですが、3~4年前にやっと完成したところにどこかインドっぽさを感じます。下の図とあわせて紹介していきます。
  • 黄金の四角形
いかにも凄そうな名前ですが、名前に恥じぬ壮大なプロジェクトです。北のデリー、西のムンバイ、東のコルカタ、南のチェンナイというインドが誇る経済活動の中核を担う4大都市を結ぶ、なんと約5850kmに及ぶ幹線道路ネットワークのことです。つまり行こうと思えば、車でもバイクでもこれらの都市を行き来できるということです!このプロジェクトは2013年に完了しております。下の図にある青色のいびつな四角形がそれです。
  • 南北、東西回廊
ポルバンダル~シルチャルを結ぶ東西回廊(3300km)と、スリナガル~カニヤクマリ(3800km)を結ぶ南北回廊を合わせた呼び方です。総延長は7100km。下の図で見ると赤色の+マークのような2本の線がそれにあたります。インドの領土が縦長なのは皆さんご存知かとは思いますが、実は意外と横にも長いです。インドの東にアッサムというブータンや中国の国境に接している地区があり、そこも含めると思いのほか横長です。その縦にも横にも長いインドをカバーするのがこの南北東西回廊です。

 

( 参考:http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/PolicyBrief/Ajiken/093.html)

 

ASEAN諸国の現状


(参考:https://ameblo.jp/phil-english/entry-12176739583.html)

ASEAN諸国のなかで、今回取りあげる国はフィリピンとタイです。かつてアジアの病人と揶揄されたフィリピンも、今ではNEXT11というBRICSの次に経済発展が期待される国のひとつに数えられています。タイも原加盟国のうちの1つで、こちらも成長著しい国です。そんな両国は日系企業が多く存在します。実に1440社(2016年調査)の日系企業がフィリピンに進出しており、タイには4,567社(2015年)進出しています。(インドは2016年で1305社)。そんな経済発展が進み日系企業も多く進出する国の道路整備はどこまで進んでいるのか見て行きましょう。

タイの現状


 

タイの道路総延長は約18万kmで、世界平均の16万kmを少し上回っています。国土面積が約51万km²なので、道路密度は0.35となり1km²あたり350mほどの道路が敷設されていることになります。「輸送関連インフラの質ランキング」は42位となっています。

タイの道路整備は、20世紀に行なわれた6段階にも及ぶ道路整備計画によりかなり進みました。その結果、1991年時点で道路総延長が20万kmとなり、舗装率も88%を超えました。そんなタイでも交通インフラ整備が進んでいます。タイでこの20年間に建設された高速道路は200キロにすぎず、利用率も高くありませんでした。そこで政府は2022年までに約1兆8000億バーツ(約5兆8000億円)を投資し、高速道路などの交通インフラを整備する計画を発表しました。1.8兆バーツという金額はタイGDPの20%に相当するものです。かなり本気です。

 

フィリピンの現状と整備計画


フィリピンの道路総延長は約21万㎞となっています。1km²あたり700mの道路が敷設されている計算です。「輸送関連インフラの質ランキング」は61位でインドより下位にランクしています。

フィリピンでは独立後から積極的に道路整備に投資を行い、幹線道路網の拡大を進めてきました。そのおかげで、観光地周辺はかなり道路整備が進んでいます。ですがその過程で道路の機能性や質の部分は二の次にされ、結果的に効率性と経済効果が良くありませんでした。そのため、上記のランキングが伸び悩んだのでしょう。実際に国家経済開発庁が出した渋滞による経済損失も年間1兆ペソ(約二兆円)、1日約80億円に達すると言われています。

政府は2018~20年の3年間で3兆6000億ペソ(約8兆461億円)に及ぶインフラ整備計画を発表しました。フィリピンの2017年国家予算が3兆3500億ペソなのでおよそ1年分の金額をインフラに投資しています。今後は観光地だけでなく他の都市部でも整備が進むのではないでしょうか。

 

 

インド フィリピン タイ 比較

上でそれぞれの国の道路整備がどれほど進んでいっているのか確認してきました。そのデータをまとめたものが下の表です。見て行きましょう。

インドフィリピンタイ
道路総延長328万km30万km18万km
密度(km/km²)約1.6約0.71約0.35
1000人当たり車保有数20台34台227台
政府インフラ投資額88兆円8兆円7兆円
輸送インフラの質(153カ国中)54位61位42位

道路総延長は国土面積の関係もありインドが一番長いですが、1km²あたりの道路の長さもインドの方がトップとなっています。つまりインドが3カ国の中では最も、道路整備が行き届いているということがいえると思います。国道整備計画の賜物ですね。

1000人あたりの車保有数はタイがダントツで多い数字となりました。ただ20年後にはインドの車保有台数が8.8倍の175台となる予測があります。車の保有数が上がれば、その分市街地を走る車の量も増え、渋滞の原因となります。インドでもより一層の道路整備が進むのではないでしょうか。

その下が政府がインフラ投資額です。インフラ整備の進捗も国により違いますし、予算にも違いがありますから投資額が少ないから消極的とはいえません。しかしインドの投資額は実に88兆円。だいたい1兆円あればスカイツリーが15本立つので、1320本スカイツリー建てられるほどの額です。インド政府のインフラ整備に対する本気度が伝わる数字ではないでしょうか。

輸送関連インフラの質ランキングではタイ、インド、フィリピンの順となりました。質の部分では3カ国とも、まだまだ先進国に遅れをとっているという感じです。ですがこれからインフラ整備も進みますし、ポテンシャルが高いと考えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。以上がフィリピンとタイ、そしてインドの道路比較です。なんとなく不便そうなイメージがあったインドの交通へのイメージが、ASEANという発展著しい国々との比較によってクリアになったのではないでしょうか。なんとなく悪いイメージが先行しがちなインドですが、実際に比較してみると全くそんなことはないんです!インドは日々着実に発展を続けています。もちろんインフラ面も例外ではありません。安心してください、インドの道路はASEANにまけてないですよ!

インフラというのはその国がどのくらい発展しているのかを計る、1つの指標となります。だからこそ自身の持っているイメージを押し付けて、「どうせ」と見切りをつけてしまうことはすごくもったいないことです。私も今回のデータ収集の中で、まさかインドの道路整備がここまで進んでいるとは思いませんでした。みなさんも少なからず驚きがあったのではないでしょうか。だからこそ自分の目で見て判断して欲しいです。世間のイメージではなく自分自身がどう感じるのか、そこが最も大切な部分です。

インドという国に対して、まだ多くの日本人は偏見を持っています。私もかつてそうでした。しかし実際にインドに来て、それは間違いだったことに気づきました。インフラもかなり整っていますし、かなり生活も便利になってきています。そのような本当のインドの姿をもっと発信できるようしていきます。そしてこのシリーズを通して皆さんに、ありのままのインドを知ってもらえるようにがんばります!

インドとASEANインフラ比較シリーズⅣ~水編~

2017.10.07

インドとASEANインフラ比較シリーズⅢ ~電気編~

2017.09.28

インドとASEANインフラ比較シリーズⅡ ~鉄道編~

2017.09.24

 

〈参考サイト〉

http://www.city.okayama.jp/toshi/dourokeikaku/dourokeikaku_00009.html

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170428/mcb1704280500024-n1.htm

https://www.env.go.jp/doc/toukei/data/11ex149.xls

https://www.jetro.go.jp/world/asia/ph/basic_01.html

http://www.in.emb-japan.go.jp/Japanese/2015j_co_list.pdf

http://bananaexp.blogspot.in/2012/03/blog-post.html

http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/jamagazine_pdf/201606.pdf

http://top10.sakura.ne.jp/IBRD-LP-LPI-INFR-XQ.html

https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM04H6F_U6A300C1FF1000/

http://news.livedoor.com/article/detail/12432564/?p=1

 

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