財閥知らずにインド経済は語れない!?財閥特集!~ビルラ編~

 みなさんお待ちかね?財閥特集第2弾は、ビルラ財閥を取り上げます!インド最大のタタ財閥と同じように、戦前から2大勢力としてインド経済を支えてきました。

前回の記事では、タタ財閥ってすごいでしょ?大きいでしょ?社会貢献もしてるんだよ!といった、プラス面が多い内容になっていましたよね。

しかし、今回の記事を執筆する中で、やはり財閥のマイナス面もでてきたんですよね~。そこで今回は、ビルラの事業内容をご紹介するとともに、インド財閥のダークな部分もお見せしていければと思います!

ビルラ財閥ってどんな会社?

かつてはタタ・グループを凌ぐほどの規模で君臨していたのですが、現在の規模はタタの3分の1程度。インドに限らず多くの財閥で起こっている継承問題がその原因です。

創業者の引退後、ビルラ財閥は6つの企業に分裂しました。その中で最大勢力となっているのは、創業者の直系の孫であるクマールが率いるアディティア・ビルラ・グループです。現在、ビルラ財閥ときいて誰もが思い浮かぶのはこの企業でしょう。

というわけで、今回の記事では、分裂後も世界的企業として名をあげる、アディティア・ビルラ・グループの素顔に迫ります!

まずは概要からチェック

それでは、タタ財閥同様、まずは概要から見ていきましょう。彼が代表のクマール氏、なんとも言えない表情です。

ビルラ財閥の従業員数は12万人、世界40ヵ国以上に進出している大企業です。繊維・化学産業を中心とし、非鉄(アルミなど)、通信業、電力や小売業に至るまで多角化しています。

分裂の際に、事業ごとに分けて引き継ぐケースが多いため、タタに比べると事業分野は少ないように感じますね。とはいえ、これら1つ1つの産業分野で高いシェアを誇っており、間違いなく同産業を引率する存在となっています。

売上高は、2兆5千億ルピー(約4兆3千億円)!筆者の印象としては、想像以上に大きな額でした。6つに分裂後の売上高がこの額って…、そのまま1つの企業体として存在していたら、ぶっちぎりの1位だったに違いありません。

ビルラ財閥のルーツについて



時は1870年、マルワリ商人であったセス・シヴ・ナラヤン・ビルラ氏が繊維の一種であるジュートのビジネスを始めたのが、ビルラ財閥の始まりです。その後、彼の孫にあたるG.D.ビルラが、綿紡績など様々な事業を一気に拡大し、その地位を1代で築き上げました。

マルワリ商人というのは、インド東部にあたるマルワール地方を出身とする商人のこと。インドの大企業の20%はマルワリ商人に属すると言われる程に、商売上手で有名なコミュニティの1つなのです!

日本でいうと、あの伊藤忠商事のルーツである近江商人のような感覚ですね。

分裂後も世界的大企業として活躍する、アディティア・ビルラ財閥に迫る!

タタ財閥には及ばないとはいえ、ビルラ財閥も多角化を進める大企業。今回は、主要な企業2社とおまけの1社に絞ってご紹介していきます。そして、恒例の日本企業との比較もやっていきますよ!

ビルラ財閥を支える中核企業は、グラシム・インダストリーズ(繊維・化学)、ヒンダルコ・インダストリーズ(非鉄)の2つです。この2社だけで、グループ全体の70%の売上を占めているんですよ。おまけでご紹介するのは、アイデアセルラーという携帯通信の企業です。それではいってみましょう!

グラシム・インダストリーズ


1948年に設立された、繊維、化学薬品、セメントなどの製造メーカー。創業当時は繊維産業のみでしたが、今ではそれ以外の分野でも業界を率いる規模に成長しました。

セメントと苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は国内トップシェア、主に衣服の原料として使われるビスコース短繊維(レーヨンの一種)はなんと世界NO.1の企業なんです。

そんなグラシム、日本企業で言うなれば、太平洋セメントと東レ!

太平洋セメントは日本国内トップシェアのセメントメーカーです。東レは、ユニクロと提携してあのヒートテックを生み出した、超有名な繊維メーカーですね。

グラシムは、繊維産業から始まった企業だとご説明しましたが、現在はセメント分野が売り上げの半分以上を占めています。そのため、これら2つの日系企業の役割を担っているのがグラシムだと理解してください。

このグラフを見て、気づくこと。やはり、グラシムの利益率の高さではないでしょうか?両社日系企業が、1桁に留まるなか、グラシムだけ2桁の利益率を達成しています。

これこそ、多角化を進める財閥の強みですね。(財閥に限らずコングロマリット企業の強みとも言えますが…)タタの記事でもご説明しました、いわゆるシナジー効果です。

一見関係のないように見える、グラシムの事業分野ですが、キーポイントとなるのが国内トップシェアを誇る苛性ソーダ。実はこの化学薬品、広汎かつ大規模に用いられる、非常に重要な薬品の1つなのです。


ビスコース繊維の製造過程でも使われますし、セメントの製造過程でも利用することがあります。そうです、みなさん既にお気づきだと思いますが、製造過程で大量に利用する薬品を、自社で製造しているってすごい強みですよね。

他社より圧倒的に安いコストで調達できることに加え、サプライヤーを探す手間も価格交渉する手間もいらないからです。

グラシムはこのようにしてシナジー効果を生み出し、高い利益率をあげることに成功しています。

ヒンダルコ・インダストリーズ


1958年に設立された、世界最大規模の非鉄メーカーです。インド国内のアルミのシェアはなんと50%以上。2007年、米ノベリスを買収したことで、世界大手の仲間入りを果たしました。

タタ財閥同様、M&Aを積極的に行っており、このような事業の拡大の仕方はインド財閥の特徴とも考えられますね。

そんなヒンダルコ、日本企業に例えるとUACJです!

非鉄の中でも特にアルミと銅を強みとしており、アルミでの売上が全体の50%を占めているヒンダルコ。そんな同社に値するのは、国内最大手のアルミニウムメーカーUACJしかありませんね。

「え、何の会社?聞いたことないな」と思った方が多いと思います。それもそのはず、こちらの企業は2013年に誕生したまだ新しい会社なんです。新しいといっても、古川スカイと住友軽金属工業という、アルミ業界で国内トップ2の合併で生まれた企業なので、蓄積された技術や巨大な生産拠点を持っています。

そんなUACJ、もちろん日本国内のシェアはダントツの1番ですが、世界に出ても負けていません。主力商品であるアルミ板の生産能力は100万トンを超え、堂々の3位に君臨しているんです。

そんなヒンダルコの方は、同業界でどうなのでしょうか。同じくアルミ板のみで考えると、ヒンダルコはなんと第2位です!日本最大手のアルミメーカーをも上回っているってすごいことですよね!

そして、グラシム同様やはり気になるのが、利益率の高さ。なぜ、こんなに利益率が高いのでしょうか?

【強さの秘密は垂直統合!】

一般的に非鉄メーカは、鉱山開発を行って非鉄を生産する企業と、できあがった非鉄金属を仕入れて加工する企業の2つに分けられます。日本代表のUACJは後者の加工メインの企業。他社から仕入れた非鉄金属でアルミ板や銅管を製造しています。

さて皆さん、ヒンダルコはどちら側の企業でしょう?

正解は、両方です!想像がついていた方も多かったかもしれませんね。ヒンダルコは鉱山開発も加工も同社で行う、つまり垂直統合を行うことで圧倒的なコストダウンに成功している企業なのです。そうして出来上がったアルミを、さらに加工する段階(食品のパッケージ用など)も同社で行っています。


川上から川下まで、全てをカバーしたバリューチェーンが出来上がっているということですね。もちろん最初から、全ての段階を網羅していた訳ではありません。近年の、戦略的な買収や合併が功を奏し、このようなバリューチェーンの構築を成し得たというわけです。企業の在り方として、これほど効率的なことはありません。

非鉄金属はそもそもが汎用的な製品であるため、技術で差別化することは困難です。そのため、できるだけ低コストで生産するということが非常に重要で、それこそが企業の競争力になるのではないでしょうか。

それができているからこそ、ヒンダルコは世界でも戦える実力あるプレイヤーとなっているのですね。

アイデア・セルラー


アイデア・セルラーは1995年に設立されたモバイル事業者です。同社のインドネットワークは、40万以上の町や村をカバーしており、インドのITインフラを支えています。売上高は6000億円約2億人の加入者を持ち、現在はインドで第3位(シェア19%)の大手企業です。

そんなアイデア、日本企業に例えるならば、日本国内でトップの顧客数を誇る、NTTドコモ!


ドコモの売上高は4兆円を超え、加入者数は約7000万人です。日本の携帯市場では、auやソフトバンクといった大手通信キャリア以外にも、格安の通信料を武器に新規参入してくる企業も増えました。そんな中、やはりトップを走り続けているのが、NTTドコモなんです。

ここで疑問が生じます。なぜ現在第3位のアイデアを、日本でトップのドコモで例えているのか。。。

それは、2018年、きっと、、、、いや必ず、アイデアが1位になるからです。

【インド携帯市場トップ2,3が統合!!】
2017年3月、アイデアはインドで第2位のボーダフォンと事業統合することを発表しました。2018年を目途に済ませる統合後は、加入者数約4億人の同国最大手になります。現在1位のエアテルもノルウェーの企業を買収しましたが、ボーダフォン・アイデア連合には及ばない見通しです。

日本経済新聞2017/2/24より

インド携帯通信市場はなんと世界第2位!!であるが故に、外資企業含め多くの企業が参入を試み、10社を超える企業が乱立しているのが現状です。

しかし、低価格でサービスを提供するには規模の拡大が不可欠であるため、近年は再編の動きが顕著になってきました。最終的には3~4社にまで、集約されると予想されています。


つまるところこんな企業


ビルラ財閥の中核企業2社とおまけの1社に関して、日本企業との比較も交えながら紹介してきました。大胆なまとめ方になってしまいますが、担っている役割としては、上記の図をイメージして頂ければ幸いです。

繊維ビジネスを始まりとしているせいか、素材系を強みとしているのがよく分かりますね。それにプラスして近年、通信業でも頭角を現しているというイメージです。

タタに比べると、てがける産業分野は少なく感じますが、タタが行っていない分野(繊維・通信)で圧倒的な存在感を放っています。

ダークなところ見つけちゃいました!!

政治権力との結びつき

同財閥の莫大な富を1代で築き上げたG.D.ビルラは、インド独立の父マハトマ・ガンディーを財政面で支援していたことでも知られています。実は、ガンディーが暗殺されるまでの4カ月間を過ごしたのも、暗殺された現場もビルラ邸だったのです。

(現在は、ガンジースムリティー博物館として一般公開されていますので、気になる方は訪れてみてください!場所はデリーです。)

このことから、いかにガンディーとの関係が深かったかが伺えますね。それだけなら、G.D.ビルラも間接的にインド独立に貢献していたのか!ビルラさんありがとう!で終わるのですが、その裏に企業家としての策略があったとも考えられるのです…。

簡潔に言いますと、インド独立後にビルラ財閥が頭角を現しだしたのは、政治権力者との公私に渡る深い関係があったからではないか、と考えられるのです。政治家と仲良くしておくことで、どんなメリットがあったのか。

それは、ずばり、ライセンスです。

【当時のインド経済はライセンスが全て??】


当時のインド政府は重要な産業を国営とし、輸出入も国が規制するという経済政策をとっていました。民間企業が自由に企業経営を行うことはできなかったという訳です。

しかし、政府も一部の民間企業にはライセンスを付与していました。そして、それを取得できた企業は、価格競争もない中で、悠遊とお金儲けができる仕組みだったのです。

つまり、当時のインドでは、素晴らしい技術よりも、低価格であることよりも、どんなことよりも、ライセンスを取得できるかが1番のポイントだったという訳です。ライセンスがなければ、企業活動ができないのですから、当たり前ですよね。

私的な関係がどれ程の影響力であったのか、今となっては分かりませんが、何かしらのメリットは享受していたでしょう。政治家とのつながりが深かったビルラ財閥は、優先的にこのライセンスを獲得し、事業を拡大していったと考えられます。

まとめ

継承問題で分裂を繰り返してきたものの、今も巨大財閥として存在するビルラ。今回は、事業分野のご紹介に加え、財閥のダークな部分もお見せしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

せっかく財閥特集をしているので、最後に前回のタタ財閥との違いを見てみましょう。

タタ財閥のおさらいと、両者の共通点

タタ財閥は、多角化によるシナジー効果で莫大な富を築いており、その富をしっかりと社会に還元している企業だとご紹介しました。

それが150年以上も続いている背景には、脈々と受け継がれる創業者の想いがありましたよね。前回の記事では、財閥という組織体系が持つメリットを、改めてご理解頂けたのではないでしょうか。
まだ記事を読んでいないという方は、下記URLから是非ご一読ください!

財閥知らずにインド経済は語れない!?財閥特集始動!~タタ編~

2017.09.22

ビルラグループも、タタ財閥同様、多角化を進めており、インド経済に及ぼす影響は計り知れません。リスクを恐れず積極的に行っているM&A戦略も、インドらしさが感じられましたね。

また、記事内では取り立てて触れていませんが、実はビルラ財閥も、はるか昔から社会貢献活動を行っており、それは今も変わらず続いています。

ズバリ何が違うのか?

前回取り上げたタタ財閥との違いは、財閥という組織体系の悪い部分が見えたこと

継承の度に分裂を繰り返したり、政治権力を利用していた可能性があるなど、財閥だからこそ起こり得る問題が、ビルラの歴史にはありました。

同じ “財閥” という組織体系なのに、このような差ができるのは何故でしょう?

1番のポイントは、徹底的組織管理力!!
かっこよく言いたくて漢字をいっぱい並べてみました!

なにがいいたいかと言うと、タタ財閥は、健全に経営していく為の仕組みづくりを、徹底して行っているんです。

例えば、汚職や不正対策。

タタ財閥は、特定の政党と結びつく等、不正や汚職に繋がることを排除する規律が発達しており、その内容がきちんと明文化されています。そして、それが昔からずっと順守されているのです。

例えば、社会貢献活動の在り方。

ビルラ財閥も含め多くのインド財閥は、企業内にCSRのための財団を設立しています。そんな中、その財団が、企業自体の株式を保有するという異例の組織体系を持つのは、タタだけなんです。

この構造により、必ず企業の利益が社会に還元される仕組みができあがっているのですね。

 

このように、同じような活動をしていても、タタ財閥はその徹底力が違います。財閥の特徴を深く理解し、健全に、そして社会の為に企業活動を行えるように、体制を整えているのです。

なんだかタタ財閥のまとめになってしまいましたが、これこそ不動の1位タタと、独立後しばらくして弱体化してしまったビルラの、分かれ目になったのだと筆者は考えています。

財閥の歴史って、調べれば調べるほど、おもしろいですね。国の歴史に密接に関わっていて、歴史を動かしているのが財閥であると言っても過言ではないのかもしれません。今後どんな歴史を創っていくのか、インド財閥の動きに注目です!

財閥知らずにインド経済は語れない!?財閥特集始動!~タタ編~

2017.09.22

ガンディーを知らずに、インドは語れない!一体、ガンディーとは何者?

2017.07.28

参考資料

Aditya Birla Group
http://www.adityabirla.com/home
東洋経済       
http://toyokeizai.net/articles/-/56003
インド株式オンライン  
http://www.indokeizai.com/Z-Birla.htm
3分で分かる非鉄業界
http://nomad-salaryman.com/post-7554


日本経済新聞
2017/3/20
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ20H7H_Q7A320C1TJC000/
2016/12/2
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO10151480R01C16A2000000/
2017/2/15
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDX14H0G_V10C17A2FFE000/

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