インドの二輪業界を取り巻く環境規制とその現状

インドは過酷な夏を終え、冬に突入しました。Palette編集部のあるグルガオンは11月から2月ころまでが冬。といっても、昼はあたたかく、過ごしやすい季節です。
暑くとも、寒くとも…朝早くとも、夜遅くとも…インドでは変わらないものが一つ。皆さんご存知の?街を走り抜ける自動車やバイクの賑やかなクラクションです。

ここでは、インドの二輪市場を取り巻く環境規制と現状についてまとめています。

 

世界の3分の1の二輪市場がここインドにある

日本の10倍の人口、13億人以上が住むこの国は俄然衰えを見せない成長を見せていますが、当然所得水準の上昇に伴いいわゆる“モータリゼーション”も起こっています。今や自動車も4輪自動車では約400万台、2輪自動車では2000万台を突破しています。4輪自動車こそまだまだ日本に比べても少ないなか(普及率は当然日本の方が圧倒的に多いですが…)、2輪自動車の2000万台という数字は、ピンとこない数かも知れませんがめちゃくちゃ多いのです。

今や世界2位の市場である中国に500万台近い差をつけて圧倒的な市場として出来上がっているのです。もう少しイメージしやすいようにお伝えすると、現在の世界の2輪販売台数はおおよそ5300万台です。つまり、3分の1、もっと言えば半分といっても過言ではないくらいにインドがその多くを占めているのです。

そりゃクラクションも鳴り止みません…驚くべきはこれがまだまだ全体の1割にも満たないということであり、今後まだまだこの購買層が広がっていくということです。

世界も注目する、インドの経済発展と環境への配慮

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ひと昔前を見てみると、中国も急激な経済の発展と所得水準の上昇に伴って、自動車の普及も一気に加速化しました。当然、工業化やその他の技術発展のおかげもあり経済は今やもう日本が太刀打ちできるレベルではないものになっています。

そんな中国が直面していた(今なお、している)のが環境問題です。近隣国である日本からしてみても、「PM2.5を持ってくるなよ!」「黄砂飛ばすなよ!」と心の中で叫んでいる方も多いかもしれませんね。とはいえ、日本も同様に環境問題や公害に直面したことは、小学生でも教科書で勉強したとおりです。

これが、10倍の人口と目にもとまらぬ成長のダブルパンチ!ともなれば、諦めたくなる気持ちも分からなくもありません。ですので、現主席の習近平氏も随分とこの環境規制の整備や環境問題への対応には力を入れているようですね。経済の成長と国力の増大化と切っても切り離せないのがこの問題であり、当然インドも例外ではありません。

原因はいろいろありますが、やはり気になるものの1つに思いつくのが自動車の排気ガスではないでしょうか。
欧州ではいち早くこれに対しての対応・対策を実施しており、自動車向けの欧州統一排ガス規制として1992年よりEURO規制を導入。徐々に厳格化していき、2003年にはEURO3を適応。さらには、EURO4(2016年~)、EURO5(2020年~)と順次適応予定としています。日本ではこのEURO基準に応じた生産、販売にシフトしており、中国ではこれを「国1」から「国6」までの環境規制基準、インドではBS4(EURO3に相当)、BS6(EURO5に相当)を適応しており、こちらも同様に順次整備していく予定です。

どうせ適当なルールでしょ?と思われる方もいるかも知れませんが、これが意外と厳しいのです。
細かな基準をクリアしなければなりませんし、当然開発コストや生産コストも上昇します。日本人にはなじみの深い“原付”“原チャリ”と呼ばれる50㏄クラスの2輪自動車もすでに姿を消しつつあり、数年先には存在を消していることになるかもしれません。

 

インドに適応される環境規制BS4、BS6とは?

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先にも触れたとおり、インドでもEURO基準に則した基準があります。それがBS(Bharat Stage)です。
Bharatとはヒンディー語でインドを意味するのですが、すでに昨年2017年にはBS4が施行・適応されています。そして、2020年にはBS6を適応しようとしているのです。EUROの場合は、3から5までを10年以上かけて適応させてきたわけですが、これがインドは3年、しかもEURO4に値する規制を飛ばして、一気にEURO5レベルにまでしようとしているのです。素人目にはその難しさがわかりづらいのですが、中学生から3年で大学生に飛び級!と例えてみると、ちょっと無理があるな…とイメージできるかもしれませんね。

具体的には、従来のBS4に比べて排出ガスに含まれるCO(一酸化炭素)を約29%、NOx(窒素酸化物)を約85%減らさなければならない、という極めて厳しい規制になるわけです。2020年の適応開始、ともなると2019年にはすべての準備を終えておかなければならず、各メーカーは対応を急いでおり、関連する部品メーカーや燃料そのものも対応が急がれています。

そんな中、インド政府は「いやいや、これからはEVの時代でしょう!」というのですから、メーカーとしてはたまったものではないです。そんなスピードある意思決定と実行力にこそこの成長があるのかも知れませんが、この数年で自動車を取り巻く環境が大きく変わること自体は容易に想像がつきますね。

 

インドの環境規制は日系企業には追い風になる?


インドの2輪市場は、ホンダとヒーローだけで7割を占める独占市場といえ、残りをローカルメーカー、欧州、欧米、日本のメーカーで分け合っているような構図になります。もともとこのトップ2社は合弁を組んでおり、市場でも完全独占状態でした。そもそもインドの2輪市場は決して歴史の長いものではないですが、1984年に合弁設立、2010年にはホンダが株式を売却し、2014年には提携を解消しています。それまでの間にホンダはヒーローに対しての技術提携を行い、当時さほど大きな存在感のなかったヒーローをここまでに育て上げてきました。解消後もシェアとしてはこの状況なのですから、いかにこの2社が市場のニーズを捉え、顧客に支持されているかがよくわかります。

とはいえ、端的に言えばまだまだローカルメーカーの技術は日本のそれには及びません。この厳しい環境規制に追いつけるか?というと、何とも言えないですね。

インドといえば、完全な価格至上主義!“安かろう”が市場を制する世界です。徐々に“良いもの”や“高品質”が理解されるようになり、グローバル感覚でのマーケティングも通用してくるようになりましたが、もう少し時間はかかりますね。高い技術が必要になり、必然的にコストが上がってくると考えると、価格を維持すべく必要とされる各社の企業努力は驚くべきものになりそうです。そうなると、これまで“技術“と”品質“に高い誇りと強みを持ってきた日系企業としては当然苦労を強いられる反面、その規制整備が追い風になるとも言えます。これまでの完成車メーカーのシェアにも大きく影響するかもしれませんし、何よりパーツメーカーにとっては大きな転換期を迎えることになるでしょう。

当然そうなれば、様々な場面での投資が行われます。新たな設備の導入、ラインの拡充、工場の新設からそれを先導する人、エンジニアと雇用にも直結していくと考えられます。働く環境に良い意味での変化が訪れることは期待できそうですね。

また、需要の拡大、2000万台市場もしくは今後はそれ以上の2輪市場に加え、環境規制でこれまでのバイクから品質や物そのものが刷新されていきますが、それにより環境が良い方向に変わっていくという期待はできることでしょう。また、インドのインフラ整備の強化や交通事情・ルールの整備も必要になるかもしれませんが、インドがこれからも変化していくことは間違いなさそうです。静かな道路、きれいな空気が拝める日もそう遠くないのかも知れませんね。

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