”海外で働く”に壁か!?各国の就労ビザ規制にみるインドの今後とは

「グローバル」「AIに代替されないスキル」「クラウドワーキング」などなど、就業を取り巻く環境は目まぐるしく変化を続けており、そのようなワードに危機感を持ち、世界という舞台に意識も持っている方は増えているのではないでしょうか?

一方、世界の国々も自国の経済発展のため、諸外国との調和のため、各種政策を取りながら世界での競争に遅れまいと日々努力を重ねています。そんな中、投資を存分に取り込み、労働力も確保しようという開放的な試みをする国、自国には一握りの優秀な人材のみを集めようと排他的な試みをする国と国により動きは様々です。

今回は、この世界で働くということに対して、海外で労働するにあたって必須となる『就労ビザ』の観点から、開放的な国と排他的な国の対照的な事例を実際に見ていきたいと思います。


 

海外で働く、暮らす日本人はどんどん増えている 

外務省の統計によると在留邦人数は年々増加の傾向を見せており、10年前と比べても10万人以上も海外に移っているのが現状です。この中には、仕事の都合で家族と共に移住、リタイア後の生活を海外で…といったケースも含まれます。しかしながら、それを考慮しても多くの人が海外での就業をしており、かつその数は非常に増えているのです。中でも、アジア圏での増加が著しいのがお分かりいただけますか?中国をはじめ東南アジアやインドなどでも日本人が増えてきたというのがこれまでの、そして最近の現状です。

つまり、日本企業の海外進出も日本人の海外就業者も決して衰えることなく着実に増えているということです。

 

増え続ける外国人に各国も黙ってはいない?!

海外を目指す日本人が増えゆく中、それでも全ての国が「誰でもいいから、うちの国で働いて!」という訳ではなく、そこには就業ビザという規制が存在します。2017年は、外国人受け入れ規制、VISA問題に大きな変化が訪れた年です。その代表例が以下2国、「シンガポール」と「中国」です。両国の変化について具体的に見ていきましょう。

21.シンガポールでは更なる締め付けが!

シンガポールは東南アジアにある都市国家であり、周辺国のハブとしても機能している言わずと知れた経済大国の一つです。1997年の移民受け入れ拡大策を皮切りに、国内には移民が急激に増加しました。その効果もあってか国内での労働人口は急速に増え、それと同時に経済発展も果たしてきました。ちなみに、2016年10月の外務省の統計によると、36,963人の日本人が滞在しているようです。実はこの国、日本と同じように少子高齢化に頭を悩ませているのですが、そうした背景も絡んで、「高度人材のみを…」「優秀なの子どものみを…」「若い人を増やして内需の拡大を…」と今までに色々と労働力や人口に関しては試行錯誤してきているのです。

そんなシンガポールですが、2017年1月より就労ビザの要件が変更となりました。これは、2014年1月に行われた前回の改定からわずか3年での改定になったのですが、国内に占める外国人がじわじわと増え続け、今では40%近くになっている現状に、国民からの「就業機会を奪うな!」「教育機会を奪うな!」と声を荒げるケースも少なくはないようで、そうした背景が考えられております。一方、シンガポール人材開発省曰く「給与水準の維持」や「外国人人材の質の維持」があるそうで、いずれにしても自国民の保護も兼ねた長期的な経済発展の為の施策と言えるでしょう。

では、実際に何が変わったかを次に見ていきます。今回は各種あるビザの中でもEP(Employment Pass)という一般的に就労ビザとして認識されているものについて取り上げます。このEP取得に際して、これまでは最低給与基準が3,300SGDでありました。もちろん他にも細かな規定はありますし、30代や40代の方がこの最低基準で容易に通るわけではありません。とはいえ、この最低給与基準が今回大幅に引き上げられ、3,600SGDとなったのです。

上記水準はあくまでも最低給与額であり、この他に「年齢」や「出身大学校」などによって金額は大きく変動する事となります。これまで、海外就職の最初の窓口として大きく門戸を開放していたシンガポールですが、2017年以降はこの傾向に大きく変化が見られるのではないでしょうか。

22.比べ物にならない?中国の新政策の裏側

そんなシンガポールの政策も驚くには値しますが、それをも超えてきたのがお隣中国です。中国と言えば、人口14億人を誇る巨大国家であり、GDPもアメリカに次いで2位となっています。かつては世界の工場と呼ばれた国も、今では最先端技術も自国で保有し、労働者の賃金はうなぎ上り、内需のみで世界企業と渡り合えるような存在となって来ています。これだけの巨大市場を有した国ですので、当然のことながら日系企業ならびに日本人や諸外国の企業や労働者は多くいるのです。

この大国でこの度何が起きたかというと、「外国人就業者に対しては厳格なランク付けを行い、優秀な者のみを招き入れる!」という大胆な政策を習主席の元、国家外国専家局の外国人来華工作許可工作グループが発表したというのです。外国人来華工作許可制度と言われるこの制度ですが、ランク付けが非常に厳しいもので、ABCの3段階(A=ハイレベル人材、B=専門人材、C=一般人材)に評価付けし、外国人の就労を許可していくというものです。これらは細かな点数によって評価されるのですが、まずはこのABCがどういった意味を成すか、下記の一覧をご覧ください。


Aランクの人材は、国全体から迎え入れられるような姿勢を取られるものの、一方でCランクともなれば国外追放とされかねない対応を取られるのです。ではAランクになればいいのでは?と思われる方もいらっしゃると思いますが、実はこのランク付けに用いられる点数表こそがかなり厳格な基準に基づいており、容易にはAランクなど取れない仕組みとなっているのです。(実際問題、Aランクに位置付けするのはノーベル賞受賞級の人材とか…)故に、現在すでに駐在している日本人、現地採用として中国国内で就業している日本人ないし外国人はせいぜいBランク、多くはCランクとなってしまうケースがざらにあるのです。まだまだ情報は少ない状況ですが、現状、総経理(社長クラス)などは無条件でBランクに位置づけられるようですが、それでも安心していられないほどこの外国人労働者に対しての締め付けは厳しいものとなっているのです。

実際に下記に一覧を紹介させて頂いておりますが、皆さんは果たして何点のスコアがついてどのランクに位置したでしょうか?(筆者はしっかりCランクで、見事排除の扱いとなります…)これには実際働いている日本人の方々も頭を抱えざるを得ず、企業(とりわけ中小企業)にとっては死活問題となることはご想像の通りです。

23.諸外国では海外就職のハードルが高まりつつある

以上のように、就業規則を厳格化し、外国人労働者の質の向上や引き締めを行うケースが近年は目立つ傾向にあるかも知れません。締め付けが厳しくなっている国は他にもあることはご存知の通りです。アメリカやイギリスといった先進国の代表例でも、そうそう簡単に外国人が働けないのはイメージがつくかとは思いますが、こうした動きが今、アジア圏でも起こっているのです。これも考え方によりますが、何も悪いことだけではなく、その国の経済が十分に成長している証であったり、グローバル経済と叫ばれる現代であるからこその自然的な出来事とも言えるのかもしれません。

 

それでも開放的な国はある


しかしながら、海外就職の部隊は毎年広がっています。締め付けが厳しくなる一方で、まだまだ他のチャンスや日本人にはあまり知られていない選択肢があるのも事実であります。インドという選択肢もまさにそのうちの1つなのではないでしょうか?

31.インドの就労規則にみる選択肢の豊富さ

決して簡単!というわけではないですが、自国の言語のレベル、高い水準の給与、学歴などの厳格な縛りがないのはインドの特徴とも言えます。参考までに挙げますと、インドでの就労ビザに必要な要件は、25,000米ドル以上の所得のみとなり、上記2ヵ国と比較すると驚くほど簡素です。加えて、近年、日印は社会保障協定も結び、社会保障費の支払いが免除されたり、年金も払戻が出来たりと、就業の整備は整いつつあるといえます。

3-2.インド在住日本人数の推移

では、実際にインド国内の在留日本人の数はどのような状況なのでしょうか。

下のグラフのようにインドで仕事・生活する日本人の数は年々増え続けており、さらには親日派のモディ氏が2014年に首相に就任した影響もあって今後も日本人の数は増加することが予想されます。ここ10年でみると、その数1986人から8655人と約4倍にも増えています。ここ5年近く在留邦人数が減少している中国と比較しても、インドが日本人、日系企業に注目されているということがよくわかります。

 

まとめ

さて、今回は就労ビザ規制の変更という観点から、各国での働きやすさやその国を取り巻く環境の変化、またそこに身を置くメリット等について触れてきました。

今後もますます国境や国籍を越えて働くことが日常化していく中で、この『ビザ』問題を視野に入れて国を選択をするというのは、とても大切になっていくことでしょう。

 

出典:

外務省 在留邦人推移

外務省 日系企業進出推移

2016年08月22日 シンガポール、EPビザの適格給与の改定(ASEAN経済通信)

BTMU(China)実務・制度ニュースレター(2016 年 11 月 23 日)

 

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