30代後半、キャリアを活かしたインド転職。はじめてのインドでこれまでの価値観が覆され、仕事とライフスタイルに新たな道と希望を見出した女性、齋藤恵さん(Shimoda Trading India Pvt.Ltd. 在職 )にお話を伺いました。
インスタグラムのお写真、素敵ですね。
ありがとうございます。2年ほど前からボディビルディングをやっていて、IFBBという国際ボディービルダーズ連盟にも所属しています。これは世界最大の由緒ある団体で、ボディービル、メンズフィジーク、ウィメンズフィジーク、フィギュア、ウェルネス、ビキニなど全部で8つのカテゴリーに分かれています。
私は人の肉体美がとても好きで、筋肉とビューティを掛け合わせた「ビキニ」というカテゴリーに属しています。
ボディビルディングには以前から興味があったのですか。
いいえ、それまではボディビルディングについても筋肉美についても全く意識していませんでした。大きなきっかけは、5年前に子宮筋腫になったことです。それまでないがしろにしてきた自分の体について見直し、それからはライフスタイルが大きく変わりました。
その中で美への意識が強く芽生えていきました。美というのは日常の延長であり、それは食べ物、運動、そして自分のマインドがとても大切だということに気づいたのです。
そして、入院中に病棟で知り合った人たちのことを考えた時、日本の女性は頑張りすぎているのではないかと思ったんです。
女性の美はもっと自由でいい。そのことを自分が発信して、頑張りすぎている女性たちを支えていきたいと思うようになりました。
日本人女性はとにかく細いことを良しとしていますが、それは世界的な価値観とはまったくかけ離れています。生き方や自分の理想の形が違うように、私たちの体もひとり一人違っていい。細くなくてもかっこいいし、美しくなれることを証明したい。
女性のみならず、男性を含めた日本人の間に広がる、枠にしばられた美に対する価値観や社会的意識を打破したい。そういった反発心のようなものが芽生えていきました。
20代、30代前半はスキルを蓄積、海外転職へ繋げる
ここで一度、インド転職するまでの経歴について教えていただけますか。
大学を卒業した後は、不動産の鑑定評価・研究事業を行う財団法人に就職しました。そこで1年3カ月不動産鑑定に関する事務と秘書業務を経験。大学は商学部で、ずっと国際関係の仕事がしたいという思いがあったのですが、母が病気がちになったこともあり、地元で就職することを優先して決めました。
その後、エレクトロニクス素材・機能性素材を取り扱う専門商社に転職しました。そこでは、10年2か月間営業経理業務を、2年9カ月間貿易輸出業務を経験しました。
私は内勤で輸出関係の仕事をしていたのですが、アジア圏全般、アメリカやインドなどとのやり取りもあり、そのころから海外へ行って働きたいという思いが強くなっていきました。
13年間の商社勤務で得たスキル、学んだことはなんですか?
国際感覚が養われたことです。日本企業だけと取引をしていると、日本の中だけの常識やしきたりに囚われてしまいがちですが、商社で様々な方と接していく中で、国ごとのビジネスの仕方を学び、国際的なビジネスの感覚が身につきました。日本人の感覚は世界基準ではないので、広くものを見て考える力というのがとても大切だと思います。
その後、2021年6月より在インドの日系商社に転職し、現在は営業とローカルスタッフのマネージメントに従事しています。
インド転職を決めたきっかけは何ですか?
前職の経験から、海外で働きたいという思いが強くなったからです。はじめはシンガポール、マレーシア、香港を中心に探していたのですが、コロナ禍でなかなか見つからず、転職先範囲をインドにまで広げていきました。
そして、たまたまインドでこれまでの商社での経験を活かせる現職の求人があったので、転職を決めました。
私にとってははじめてのインドでしたが、インドに来て本当に正解だったと思っています。すぐにインドの魅力にはまってしまいました。

商社営業として、日本とインドで働くことの違いについてどのように感じていますか?
インドにおけるビジネスでは、インドの商習慣をベースに考えなければいけないということです。日本のやり方にとらわれて、無理やり押し通そうとしてもうまくはいきません。弊社では、二輪と四輪のエレクトリック部材を取り扱っていて、直接関わるお客様は日系企業の購買担当のインド人の方が多く、日々戦っています。
また、ローカルスタッフのマネージメントも難しい点のひとつですね。
インド人は、できないことでも自信満々にできると言いますし、良くも悪くもインド人の自己肯定感の高さには驚かされます。ただ、どんな状況であっても自信を持って発言するというのは、インドでビジネスをする上では大切なことなのかもしれません。
私はインドで働くことによって、頭が柔軟になったと思います。日本の当たり前がインドの当たり前ではないので、ビジネスに対しても、人に対しても、いかに許容してものごとを広く見られるかという大切さを学んでいます。

仕事、好きなこと、人との繋がり方、自分らしく生きれる国インド
インドではどのようにワーク・ライフ・バランスを実現していますか?
私はインドに来てからもボディビルディングを継続しています。実は、日本にいたときよりも更に真剣度が増し、ワーク・ライフ・バランスも確立できていると思います。私のトレーニングコーチはとても真剣に厳しく指導してくださり、そして一緒にトレーニングをしている仲間たちが本当に温かいんです。ボディビルディングは個人競技で、お互いがライバルにもなり得ます。でも、インドでは経験豊富な人が初心者に指導してあげたり、困っている人がいたら助けたり、みんなで頑張ろうという前向きな雰囲気をとても強く感じます。
トレーニングは、平日は毎日、仕事が終わってから2時間。土日は朝に2〜3時間ほどです。
食事のコントロールもコーチの指導のもとにメニューを考えて自炊しています。基本的に外食は禁止です。。また月に一回、トレーナーがいるチェンナイへも足を運んでいます。チェンナイの人たちは本当に温かく、いずれインドでプロのボディビルダーを目指している私に対して様々な面でバックアップをしてくださって、私は人の優しさに本当に涙を流して泣いてしまいました。
ボディビルディングの醍醐味は、日頃の自分のメンタルコントロール、つまり自分との戦いだと思っています。毎日のトレーニングメニューは、さぼろうと思えばさぼれてしまう。でも日頃の努力やメンタルコントロールの集大成が大会の日に全て表れるんです。
インドに来て、本当に親身になって指導してくれるコーチと出会い、コーチの信頼を裏切りたくないという思いと、ボディビルディングのプロを目指したいという思いが、自分を強くしてくれていると思います。
国境を越えてスポーツの哲学で人と繋がれるのがスポーツの良さだということを、身をもって感じています。
インドのボディビルディング事情について教えてください
インドは人口ボリュームが圧倒的に強く、経済成長とともにインドスポーツ全体がこれからどんどん伸びていくと思います。ボディビルディングもとても高いポテンシャルを秘めていると感じています。特に男性のポテンシャルは高く、日本人男性が受けているような国際レベルの指導プログラムとトレーニング環境が整ったら、日本人の比じゃないと思います。
女性のボディビルダーも少しずつ増えてきてはいますが、中流から富裕層に偏っている傾向にあり、男性に比べるとまだハードルが高いことも事実です。
インドの女性は自分らしさをもっていて、体が細くても太くても、型に当てはめることなくそれぞれの美を自由に表現しています。ボディビルディングには肌を露出しなくてもいい大会もあるので、インド人女性が当たり前にボディビルディングに参加できる世の中になっていって欲しいと願っています。
インド転職で見えてきた、自分の在り方やキャリア
今後インドのボディビルディング業界にどのように関わっていきたいですか?
自分自身がインドでボディビルディングをする中で、私はインドのボディビルディングやフィットネスを盛り上げていく活動も積極的に行っていきたいと思うようになりました。貧しい人の中には、実はローンを組んで大会に出場している人もいます。
本当に楽しみながらボディビルディングをする若い人や子供たちを見ていると、私自身がとても勇気をもらえるし、私もこういう若い子たちをもっと救ってあげたいと思うようになりました。
例えば、スポンサーをつけて、若い人たちが頑張れるような環境を作って支援をしていく。ボディビルディングが子供たちの夢になるような活動をしていきたいと思っています。具体的には、現在インド人の仲間と資金調達のためのスポンサー探しをしたり、私が日本のフィットネス雑誌で持っている自分のページでアピールをしたり、できるところから活動を始めています。
年齢を重ねて、インドでのボディビルディングを通した人との出会いを経て、物欲よりも誰かに喜んでもらったり、感謝されたり、信頼されることに価値を感じるようになりました。これからはますます、そういった目には見えない資産を大切にしていきたいと思います。
またこの背景には、「与えなさい」という祖母の教えもあります。
人に与えることによって、それは巡り巡って自分に必ず返ってくると私も信じています。特にインドは、与えただけ全部自分に戻ってくる国だと思います。
最後に、インド転職を考えている方へメッセージをお願いします。
私はインドに来て、自分でも気づいていなかった”思い込み”から解放されました。日本人女性たちは、どうしても家庭、仕事、ライフステージなどに縛られてしまいがちですが、そういったしがらみからもっと解放されていい!と伝えたいです。
そういう意味でも、インド転職はとても魅力的だと思います。
住む場所にもよりますが、実は住むことのハードルも高くないし、治安も悪くないし、オシャレやエステなど、日本でできることは大抵なんでもできます。その上、生活面での時間の自由度が高く開放的なインドの魅力をどうやって伝えていけばいいのか、現在インド就職仲間たちと話し合っていて、各自がSNSなどで発信しています。
私は、インドに来たからこそ仕事とボディビルディングの充実というワーク・ライフ・バランスを実現できていると思っています。
迷っている皆さんには是非一度インドに来てみて欲しいです。そしてできれば、数ある海外転職の中でインドを選んでみてください。
編集後期
ここインドでも、自分らしく自由な生き方とともにワーク・ライフ・バランスの実現している齋藤さんは、ポジティブなエネルギーに満ち溢れ、自己成長の無限の可能性を感じさせてくださる方でした。「インドだから出来ないことはない」という齋藤さんの言葉が印象的であったように、齋藤さん自らが、できないことをできることへ実現されています。多様性の国インドだからこそできることを、是非みなさんも見つけてみてください。