11月8日、世界的なニュースとしてアメリカ大統領選挙が行われました。第48代アメリカ大統領を決定するもので、ドナルド・トランプ氏がヒラリー・クリントン氏に勝利し当選しました。日本でもニュースや各種SNSでも大きく取り上げられているはずです。政治、経済など様々な面で、世界各国は影響を受けるでしょう。
しかし、インドではこのニュースよりも、衝撃的なニュースが国内を駆け巡りました。インドの高額紙幣500ルピー/1,000ルピーの使用を突然停止する、とインドのモディ首相が発表したニュースです。
大統領選をも上回るニュースとは?
まずは、施行の猶予期間がなかったことです。上記の500/1,000ルピーが無効になるまで、モディ首相の発表がされてから、わずか4時間しかありませんでした。少し前から、この件に関してはモディ首相は言及していたみたいです。しかし、それでもいきなり実行に移してしまう決断力・行動力はインドのリーダーとしては、さすがと言えるものがあるでしょう。
次は、インド国民が日常生活で不便を被ることです。インドは物価が安い国で有名ですが、そんなインドでも現在は急速な経済成長を遂げ、中産階級の人口が増えてきています。彼らにとっては、しばらくの間、日常生活で多少の不便があるでしょうが、それにもしっかりとモディ首相は対策を打っていますので、後に説明致します。
なぜ、インドは高額紙幣を無効にしてしまうのか?
今回モディ首相の発表には、当然理由があります。
その理由として、大きく3つ、①脱税対策、マネーロンダリングの撲滅、②偽札対策、③資産把握があるといえます。
特に、脱税対策面では、大きな効果が期待出来ると言えます。インドは、言わずとしれた現金主義として有名です。支払いを行う際に、現金を好みます。これは不動産のような高額購入であったとしても、スーツケースに現金を入れて半額を支払うという事も多くあります。そのため、課税対象が不明となり、脱税を許す原因となっています。
一説では、インドの秘匿資産は5,000億ドル以上と言われており、その多くがタンス預金として現金で取り扱われています。一部の富裕層では、現金を壁の中に隠したり、床下に隠したりと、あらゆる手法を使って隠ぺいを行っていると言われています。
また、インド国民の多くは日雇い労働など脱税しやすい職に就いており、2014年~15年の税申告漏れは推定1050億ドルにものぼるとされ、そのうち「96%の回収が困難を極める。」との見解を政府は示しています。現金のみを所有し、納税しない人々(いわゆる低所得者層)による地下経済は、国内総生産(GDP) の50%に及ぶと推測されています。
こうした低所得者だけでなく、富裕層らによる税逃れにも現金決済が使われているのです。今年初旬には「パナマ文書」でも、実に5,000人にものぼるインドの富裕層の税金隠しが指摘されました。こうした問題をいち早く解決するために、モディ首相はそうした富裕層に現金を銀行口座へ入金させて、隠し資産をあぶりだす狙いようにしているのです。
この今回の政策により、相当な税収入が見込まれます。今年夏に、インド政府が4ヶ月間実施したアムネスティ(租税特赦)期間中の申告件数は6万4275件で、回収総額98億ドルでした。これはインド政府に40億ドルの追加税収をもたらしたことになるのです。よって、今回も同様の効果が期待できます。社会問題を解決しつつ、経済効果をも及ぼすモディ氏はすごいのです。この猶予期間が1週間であったなら、現金は全て金や現物に変わっていたかと思うと、4時間という猶予期間にもうなづけます。
国外に隠されたブラックマネー
2015年5月に行われた法改正により、国外ブラックマネーへの規定は一層強さを増しました。インド在住者は、国外における所得、及び資産についても開示義務が生じるというものでした。つまり、インド国外の口座情報、株式売買記録、不動産情報に至るまで、資産に関わる全てに対して開示を義務化、守らない際にはペナルティが課せられるという「ブラックマネー法案」と呼ばれるものが導入されました。
しかしながら、国外収入の隠蔽やマネーロンダリングについては、旧来から存在するハワラという決済システムが、それを助長させる元凶ともなっているという説もあります。出稼ぎに出かける国民、国外で得た収入、または犯罪によって得た金額など、その金額をハワラを使用して送る事により、隠された現金を生み出し、課税を避ける結果に繋がりかねないのです。
ハワラ:銀行決済や文書記録なしにお金をさまざまな場所に送金する仕組みで、そのネットワークは仲介人の信頼によって成り立っている。
インド現地の銀行やATMでは混乱が発生
モディ首相は当日の演説で次のように語りました。
「ブラックマネーと腐敗が、貧困撲滅の最大の障害となっている。パニックになる必要はありません。あなたのお金は残ります。」
11月10日から12月30日に、銀行か郵便局の口座に預け入れない限り、紙幣は何の価値もない紙くずになると表明しました。今回インド中央銀行は、1,000ルピー札を廃止して、新たに2000ルピー札の発行しました。2000ルピー札を今月10日から、新デザインの500ルピー札を数週間以内に発表する予定とのことでした。
当然、紙幣の交換には猶予が作られています。
- ①現金での交換が、4,000ルピーまで可能(11月24日まで)
- ②銀行への預け入れが、250,000ルピーまで可能
- ③銀行口座がない場合、2017年3月31日までに指定されたRBIオフィスにて適切な許可が交付された後に交換可能。
- ④1日に引き出せる限度は10,000ルピー、1週間あたり20,000ルピーまで。この上限はすぐに増加する見込み。
- ⑤カードによるATMからの引き出し限度は1日あたり2,000ルピーまで。後に4,000ルピーまで増加する見込み。
- ⑥入国、出国する旅行者の為の対策が空港でも両替は可能。
※また、明日11日までは病院や鉄道、航空会社、ガソリンスタンドなどに限り、旧紙幣での支払いが認められてもいます。デビットカードやクレジットカードでの決済の制限はありません。
もし、25万ルピー以上の現金を所有していたとすると、振込自体は可能ですが、税務当局による監査が入り、年間所得を上回った場合、通常の課税額から200%がペナルティーとして課される事となります。これから、インド政府の脱税に対する本気度が伝わります。
筆者考察
大きな混乱を招きつつある今回の施策。日常生活に支障をもたらすため否定的な意見も多く聞きますが、政府による対策もきちんと講じられており、混乱は一時的なものになるかと思われます。それよりも、脱税、汚職、ブラックマネーに対する今回の決定と実行までのスピード感は目を見張るものもあり、長期的にはインド経済にとって大きなメリットともなると言えます。反対派も多くあったであろう中で、政治生命をかけたともいえるモディ首相の施策、今後の経済効果に大きな期待です。
コメント