インドとASEANインフラ比較シリーズⅡ ~鉄道編~

インドの鉄道が全てこんな感じでだと思っている方!そんなことはありません!この写真はかつてのもので今はかなり整備が進んでいます!実際にインドは世界第4位の鉄道網を有しています。意外にインドってすごいですよ!

ASEANとインドのインフラを比較するこのシリーズ。記念すべき1回目はインドとASEANの道路比較で、ASEAN諸国に負けないほどインドの道路整備が進んでいることを紹介しました。2回目の今回は鉄道編です。人の移動だけではなく物流にも大きく関わってくる鉄道というインフラ。そんな国の発展を支える鉄道というインフラが、インドではどのくらい整備されているのか、また今後インド政府はどんな鉄道整備計画を実行していくのかを紹介していきます。もちろん今回も比較対象としてASEAN諸国の現状をあわせて紹介します。

このシリーズはインドの本当の姿を知ってもらうためのシリーズです。なんとなく世間のイメージで整備されていない印象のあるインドの鉄道もかなり整ってきています。本当に?と思う方、是非自分の目で確かめてみて下さい!

 

インドの鉄道

総線路長世界4位
鉄道における輸送密度世界3位

整備が届いてそうにないインドの鉄道ですが、上の表に書いてあるとおり世界的に見ても敷設が進んでいます。ではそれぞれ細かく見ていきましょう。

まずインドの総線路長は世界第4位の長さです。下の表をご覧下さい。2014年時点での鉄道網における総線路延長の表です。

〈https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/40129386b8213bbb/20170038.pdfを元に筆者が編集〉

BRICSに該当する国々が上位を占めており、インドも例外なく4位にランクしています。総線路延長は6.5万km(線路密度:0.02)で日本の3倍以上です。なぜここまで線路が開通しているのでしょうか。それはインドの歴史が少し関係します。

19世紀中ごろ、産業革命後のイギリスは巨大な綿織物工場を営んでおり、原材料となる綿を当時植民地であったインドから輸入していました。インドにはその当時鉄道が存在していなかったため、国内の輸送にかなり時間がかかっていました。そこで東インド会社が主導となり輸送効率を上げるべく鉄道建設を始め、1853年に約34kmの鉄道がムンバイ~ボリ・ブンダー間を開通したのをきっかけに、次々と開通していき1900年までにインド鉄道網は世界第5位の大きさとなりました。インドの鉄道整備は植民地時代に大きく進んだということです。

独立後も整備は進み、1947年には約5万kmだった総線路長も現在では6.5万kmとなり、0.7%だった電化率も48%まで上昇しました。鉄道における電化とは、もともとディーゼルエンジンを動力に走ってた鉄道を、電気を動力にして走るように変えていくことです。環境面や騒音発生で問題のあったディーゼルエンジンから、より近代的な手法として電化が進んでいます。つまり電化とは近代化と同義です。

以下のインド鉄道網の図を見るとびっしりと線路が敷設されていることが分かると思います。実際にインドにほとんどの都市は鉄道でいくことが出来ます。もちろんインドの東に位置するアッサム地区も、インドのシリコンバレーといわれるバンガロールも例外ではありません。

線路敷設の距離はかなり長いですが、質があまりよくないのも事実です。貨物列車など積載量の多い列車が走行する際、老朽化した線路が原因で脱線事故を起こすことがしばしばあります。また駅のホームも清潔とは言えず衛生的にも問題があります。ですがデリー近郊や駐在員が多く居住しているグルガオンなどの都市部ではそのようなことはありません。2002年に開業したメトロはホームも近代的で列車内部もかなり整っています。詳しいメトロの情報に関してはこちらをご覧下さい。「デリーメトロ 2017年最新情報! インドの鉄道はここまで発展した!」

 

これだけ広大な国土に世界4位の鉄道網が広がっているわけですから当然、物流にも大きく影響しています。下の「鉄道における輸送密度」の表をご覧下さい 。

〈https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/40129386b8213bbb/20170038.pdfを元に筆者が編集〉

トンキロ:鉄道貨物輸送量のこと 貨物の重さ(トン数)とその貨物を輸送した距離(キロ数)を掛け合わせたもの

旅客キロ:鉄道旅客輸送量のこと 旅客の人数とそれを輸送した距離を掛け合わせたもの

輸送密度とは簡単に言うと、どれだけ多くの貨物、人を長い距離運べているかという数値になります。つまり中国、ロシアに次いで世界で3番目に多くのヒトとモノを輸送するネットワークがあるということです(トンキロ=625723百万、旅客キロ=978508百万)。ほかにも、総貨物輸送量が年を追うごとに増加しており、2010年8.9億トンでしたが2016年には約12億トンにまで増加しています。2020年には21億トンになると予想されており、交通の面のみならず物流の面においても、鉄道というインフラが重要な役目を担っていることがわかると思います。

 

これからのインド鉄道


インドの鉄道整備はこれからも続きそうです。その理由に、政府が積極的に鉄道インフラ整備に注力しているという点が挙げられます。2015年に発表された鉄道整備5か年計画は、日本も財政や技術的な面で支援しており、今後5年で国内の鉄道向け投資を8兆5000億ルピー(約17兆円)に拡大し、近代化を計る方針を明らかにしています。インドでは線路敷設に関しては世界的に見てもかなり進んでいますが、衛生面など幾つか問題が存在していおり、線路の老朽化からなる事故もそのうちの1つです。これらの問題点をこの5年で解決し、かつ鉄道網の拡大、さらには電化率100%を達成しようという計画です。8.5兆ルピーというとインドの2017年歳出総額(21兆ルピー)の4割に上ります。政府の本気度が伝わる数字ではないでしょうか。

上記の計画のほかにもうひとつ壮大なプロジェクトが進行しています。それが高速鉄道の建設計画で、アーメダバードとムンバイの約500kmを結ぶ高速鉄道の建設するという計画です。来年の着工と2023年の開業を目指しています。この計画の詳細に関しては別の記事で取り上げますが、完成すればインドの交通インフラを劇的に向上させることは言うまでもありません。

 

ASEAN諸国の現状


今回取り上げる国はタイとインドネシアです。インドネシアは2000年以降、経済成長率が一度もマイナスになっておらず安定した成長を続けており、NEXT11という経済発展が期待される国の1つにも数えらています。タイも原加盟国のうちの1つで、こちらも成長著しい国です。両国に進出している日系企業数はタイに4,567社、インドネシア2,021社となっており両国ともかなりの数存在しています(インドは2016年で1,305社)。 また平成26年の調査における在留邦人の数は、タイに64,285人、インドネシアには17,893人とこちらもかなり多いです(インドは9,147人)。そんな経済発展が進み、日本と関係の深い両国の鉄道整備はどこまで進んでいるのか見て行きましょう。

タイの現状


(参考:https://www.spintheearth.net/thailand-flag/)

タイの総線路長は5,327km(線路密度:0.007)となっています。ASEAN諸国の中では総線路延長が最も長いです。電化率はエアポート・レール・リンク路線という路線距離 28.6kmの鉄道のみ電気を動力にしており、それ路線以外は電化が進んでいません。タイの鉄道旅客輸送量は7,504百万人キロ、鉄道貨物輸送量は2,455百万トンキロとなっています。

タイの鉄道は遅延、事故はあたり前で時間通りに目的地に行けることはかなり難しいようです。タイ国内を長距離移動する手段としては、ミニバンなどの乗り合いバスで移動するのが一般的で、タイ国鉄を使っての移動は最も非効率な手段となっているようです。インドのメトロのように1,2駅でも気軽に乗れるものというより長距離専門の乗り物となっているようです。

インドネシアの現状


 

高速鉄道計画で遅れが出ているインドネシアですが鉄道整備はどのくらい進んでいるのでしょうか。インドネシアの総線路長は5042km(線路密度:0.002)となっています。

インドネシアの鉄道は物流にかなり関わっています。インドネシアの鉄道旅客輸送量は20283百万人キロ、鉄道貨物輸送量は7160百万キロとなっており、どちらもASEAN諸国の中でトップに立っています。鉄道がモノ・ヒトの輸送にかなり大きな影響を及ぼしているということです。

インド タイ インドネシア 比較

これまで3カ国の鉄道整備状況を見てきました。そのデータをまとめたものが下の表です。

インドインドネシアタイ
総線路長650,000km5,000km4,071km
線路密度(km/km²)0.020.0020.007
電化率48%データなし0%(一部を除く)
鉄道貨物輸送量625,723百万トンキロ7,160百万トンキロ2,455百万トンキロ
鉄道旅客輸送量978,508百万人キロ20,283百万人キロ7,504百万人キロ

総線路長

国土の関係もあり、インドがダントツで長くなっています。インドの国土面積はかなり広いですが、全体まで広く線路が敷設されていることが分かります。実際にインドでは電車でだいたいの主要都市にいくことが出来ますし、かなり整備されています。問題は質の部分です。例えば線路の老朽化も進み、それによる事故が起きています。ですが政府が鉄道インフラに積極的に投資している面から考えても、5年後にはデリーやムンバイといった都市部の整備はかなり進むと考えます。

線路密度

インドと両国の数値に1桁の違いがあります。経済発展著しいインドネシアやタイより単純に10倍ちかく鉄道ネットワークが広がっているということが数値から分かると思います。インドの鉄道線路敷設はASEAN諸国と比較しても優れているということがいえそうです。

電化率

タイの電化率はエアポート・レール・リンク路線を除いて0%となっています。その鉄道のみ電気を動力にしており、それ以外はディーゼル動力です。インドではだいたい半分ほど電化が進んでいます。現段階ですでに電化率はタイを上回っていることから、インドの鉄道のほうが近代的な整備が進んでいるといえます。さらにインドでは2020年には完全電化を実現するという計画も存在し、今後さらに電化が進むと考えられます。

鉄道貨物輸送量と鉄道旅客輸送量

インドと両国の数値にかなり差が出ました。インドの方が人口が多いため旅客キロで差がありますが、トンキロにおいても2桁の差があります。つまりASEAN諸国の中でトップのインドネシアよりも、多くのヒト・モノを運んでいるということです。このことからASEAN諸国のどの国よりも多くヒトとモノを輸送できるネットワークを有しているということがいえると思います。

以上4つのデータを用い、インドとASEANに属する両国の鉄道インフラを比較しました。どのトピックにおいてもインドのデータが優れているということがお分かり頂けたと思います。少しだけインドに対して少しでもフラットな気持ちになっていただければ幸いです。

まとめ

私はインド政府が鉄道整備に力を入れている理由として、経済発展をさらに加速させたい狙いがあると考えています。インドの物流はトラックなどを利用しての道路輸送が全体の7割近くを占めていますが、渋滞などの問題によりスムーズに輸送できていない現状があります。まず政府は鉄道を整備し、モーダルシフト(陸運の輸送方法をトラックから船舶や鉄道に切り変えること)を進めたい考えなのではないでしょうか。

モーダルシフトが進むとトラックを利用しての輸送が減ります。それは輸送費やCO2削減に繋がるだけでなく、渋滞の緩和にもつながり時間短縮や生産性の向上などの効果をもたらします。インドの発展を下支えする物流業界の生産性の向上は、間違いなくインド経済に良い効果をもたらし、GDP増加にも影響を与えます。それにより国民の所得があがり購買行動が活発となることで、経済をより活性化させる結果になると考えます。以上のことからインド政府に経済発展を加速させるために、鉄道整備に力を入れているのではないかと考えました。今後の更なる経済成長から目が離せません。

なんとなくインフラが整備されていない印象のあるインドなので、意外だと思われた方も多いのではないでしょうか。実際に数字を用いて見てみると、ASEAN諸国とそこまで大きな差がなく、むしろインドの方が優れていることがお分かりいただけたと思います。その事実は「どうせインドなんて」と見切りをつけてしまうと絶対に知ることの出来なかったものです。インフラ面に限らずインドという国は今後どんどん成長していきます。これからも世間のイメージに惑わされず、ご自身の目で判断する姿勢を大切にしてください!安心してください、インドの鉄道はASEANにまけてないですよ!

 

 

〈参考サイト〉

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170505/mcb1705050500003-n2.htm

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000086464.pdf

https://www.asiax.biz/biz/11363/

http://top10.sakura.ne.jp

http://top10.sakura.ne.jp/IBRD-IS-RRS-GOOD-MT-K6.html

http://top10.sakura.ne.jp/IBRD-IS-RRS-PASG-KM.html

インドとASEANインフラ比較シリーズⅣ~水編~

2017.10.07

インドとASEANインフラ比較シリーズⅢ ~電気編~

2017.09.28

インドとASEANインフラ比較シリーズⅠ ~道路編~

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