インドでは、英語は政府が定める準公用語とされており、2018年には約10%、2022年には約14%の人々が英語を使用している統計データが発表されています。ビジネスの場においてはもちろん使用頻度は高く、都市部の日常生活では、インド人同士でも英語で会話する人を多く見かけます。一方で、地域や教育水準によっては、英語が通じない方も多くいるのが現状です。
日本で生活している中で、同じ国籍なのに言葉が通じないという体験は、ほとんどありません。日本語だけでコミュニケーションが取れることが当たり前の日本人にとって、多言語話者がほとんどである環境は珍しいかもしれません。
インドは、世界でも稀な言語文化を持っています。2,000以上もあると言われている、州や地域特有の第一言語に加え、国が定める公用語であるヒンディー語、その他にもウルドゥー語やタミル語、テルグ語など全22の指定言語が存在しています。
ここでは、そんなインド生活における英語のレベル感と利用頻度の実情について掘り下げ、このような特殊な環境のインドで働く日本人の英語レベルについてご紹介します。
※こちらの記事は2018年10月に作成した記事に、2022年12月時点の最新情報を加筆修正して再度公開しています。
英語を公用語に指定する州もあるインド
インド憲法の条文(第343条)では、「インドにおける連邦政府レベルでの唯一の公用語はデーヴァナーガリー表記のヒンディー語である」と規定されています。その一方で、同憲法においては第8付則に22言語が挙げられています。アッサム語・ベンガル語・ボド語・ドーグリー語・グジャラート語・ヒンディー語・カンナダ語・カシミール語・コンカニ語・マイティリー語・マラヤーラム語・マニプリ語・マラーティー語・ネパール語・オリヤー語 パンジャーブ語・サンスクリット語・シンド語・サンタル語・タミル語・テルグ語・ウルドゥー語
この22言語の公的位置づけを直接定義するような明確な記述は、憲法本文に一切ありません。複数の条文から総合的に判断して「インド政府の後押しによるその言語の文化的発展が望まれる言語」というように解釈される事が多く、いわば「公用語」未満の曖昧な位置付けでありながら「公的に認定されている言語」の位置づけにとどまっていると言われています。なんとも複雑で、曖昧です。日本人にはなかなか理解できない概念ですね。
ヒンディー語を公用語に指定しない州は英語が公用語
例えば、ケララ州では、公用語は22言語の中のマラヤーラム語が指定されており、22言語の言語を公用語と指定する州もあります。国の方針を無視しているところが、さすがインド。一方で、ケララ州は、準公用語の英語教育が盛んである州として有名です。インド北部は、主にヒンディー語と英語が公用語とされており、南部は英語が公用語として使われている傾向があり、南部に行けば行くほど英語話者が増え、英語レベルが高い傾向にあります。
このようにヒンディー語を学校教育に取り入れていない州があったり、地方によってヒンディー語の浸透度も異なり、インド人同士でさえ、準公用語の英語を使用してコミュニケーションを取る必要性が生まれています。
インドで英語を使用する「英語人口」は世界第2位
英語を話せる人の数を示す英語人口。2018年の第1位はアメリカ合衆国で、人口の約96%の人が英語を話します。これに続く国がインド。しかし、その割合は低く人口12億人以上に対する英語人口は、約1億2,500万人と全体の10%程度でした。ランキングは2022年になった現在も動くことはなく、インドの英語人口は現在も世界2位です。しかしながら、その割合は以前から急激に増加しており、約2億6,500万人が英語を話しているという報告があります。2018年から2022年の4年間でインドの英語人口は10%から約19%にまで増加しました。
都市部以外の英語話者も増え続ければ、インドの英語人口がアメリカ合衆国を抜く日も近いかもしれませんね。
英語話者の多くは大学以上卒業
「インド人間開発調査(IHDS-2005)による英語話者の割合(下図)」からもわかるように、インドで英語を話せる人の多くは大学を卒業しています。インドの階級制度(カースト)が上位になればなるほど話せる割合も高くなります。また、初等教育や中等教育で私立の学校に行くか公立の学校に行くかによっても、教育カリキュラムが異なるため、英語力にも影響してきます。大学卒業者の90%近くは英語を話すことができ、中等教育を受けた人の場合は50%強の人が英語を話せるとあります。
出典データ|「インド人間開発調査(IHDS-2005)による英語話者の割合」
https://news.yahoo.co.jp/byline/terasawatakunori/20150801-00048077/
http://www.uh.edu/~achin/research/azam_chin_prakash.pdf
インドの教育レベルと英語話者の関係性
2011年に実施された国勢調査では、インド全人口における識字率は73%という結果でした。貧困層が多い被差別カーストのみで実施した調査では識字率は66%と下がります。人的資源開発省によると、小学5年生までに児童の約20%が中退し、47%が日本の高校1年にあたる10年生までに中退。12年生まで学校に在籍するのは、同年代の49%。大学や専門学校など12年生以降の高等教育の進学率は計21%とあります。(2016-05-24 朝日新聞 朝刊2外報)このデータから見ても、貧困差の激しいインドにおいて、教育を受けたくても経済的に継続が難しい層もおり、経済力と英語力は強い結びつきのある事象と言えます。
しかしこういった状況も少しずつ変化しつつあります。インド人成人(15歳以上)の読み書きのできない文盲率と識字率にも変化が出てきています。
文部科学省による「教育改革の総合的推進に関する調査研究~諸外国における学制に関する改革の状況調査~」によると、インド政府が1950年に5カ年計画をはじめて教育制度の改革に取り組んでいる成果もあり、10年ほど前に比べると文盲率が減りかつ、識字率が上昇していることがわかります。
出典データ|教育改革の総合的推進に関する調査研究~諸外国における学制に関する改革の状況調査~http://libir.josai.ac.jp/il/user_contents/02/G0000284repository/pdf/JOS-09110658-3101.pdf
インド政府が第12次5ヵ年計画で打ち出した国民皆教育計画により特に過去5年間で初等教育レベルの就学率は大幅に改善されました。教育制度等の改善により、識字率の割合は高まっており、今後は、更に英語人口の増加が見込まれると予測されます。
インドの宗教と英語話者の関係性
学歴と英語話者の関係性については、多くの方がイメージできるのではないでしょうか。ヒンドゥー教のイメージが強いインドですが、実際は様々な宗教信者の方々が共に暮らしています。ここでは、宗教と英語話者の関係性についてご紹介します。インドの情報サイトFind Easyの報告によると、2022年のインドにおける宗教別人口は次のとおりです。
- ヒンドゥー教徒 10億9,000万人
- イスラム教徒 2億人
- キリスト教徒 3,120万人
- シーク教徒 2,370万人
- 仏教徒 960万人
- ジャイナ教徒 510万人
- その他 910万人
参考|Population of India by religion 2022
https://www.findeasy.in/indian-states-by-religion/
Lok Foundation の調査では、ヒンドゥー教徒の6%、イスラム教徒の4%に対し、キリスト教徒の15%以上が英語を話すことができると報告されています。
参考|In India, who speaks English, and where?
https://www.livemint.com/news/india/in-india-who-speaks-in-english-and-where-1557814101428.html
次の画像では、比較的教育レベルの高い北インドデリーと、キリスト教徒が多く集まるインド西部・ゴアやインド北東・メガラヤに英語話者が点在していることがわかります。
参考|Speaking English seems more closely linked with income and religion than geography
https://www.livemint.com/news/india/in-india-who-speaks-in-english-and-where-1557814101428.html
これらから、インドでは教育だけでなく、文化や歴史など様々な要因で英語話者が存在していることがわかります。
インドのビジネスの場では英語がマスト
人口のおよそ19%の人しか英語が話せないという数値データを聞くと、少ないと感じるかも知れませんが、実際、ビジネスの場で英語を話せないインド人はほとんどいません。インド人同士でも英語でコミュニケーションを取ることも日常ですし、外国人とのコミュニケーションには必ず英語を使用します。
ビジネスの場の英語のレベル感は?
業界や職種によって、英語話者のレベル感は異なります。欧米ネイティブに近いアクセントを話す英語話者もいますし、ヒングリッシュと言われる英語を話すビジネスマンもいます。例えば、コンサルタント業界などは大学院卒であったり、海外での就学・就業経験のあるインド人も多く、ネイティブに近い英語を話す方が多くいます。多国籍企業であれば、日常的に欧米圏ネイティブとのコミュニケーションも多く、グローバル基準の英語に傾倒しています。
一方で、建設業界などは、高卒や大卒までの教育レベルの英語話者は、ネイティブレベルの英語力ではありません。文法が正しくないことがあったり、特殊な単語を使用する場合もあります。と言っても、日本人のビジネス英会話レベル以上のコミュニケーション力はあり、ビジネスにおけるコミュニケーションには十分な英語力を持っています。
弊社のような人材業界に務めるインド人は、教育水準は平均して高く、全員が英語を流暢に話します。
業界問わずして言えることは、日系企業で働く以上は英語が共通語となり、インド人従業員に関していえば、英語力の高さが日系企業に就業する前提条件でもあることも理由です。
日本人の英語使用頻度は?
インドで働く日本人の方々も業務内で英語を使うことが多いです。例えば、弊社では、日本人スタッフが3名、インド人スタッフが11 名という環境です。英語をコミュニケーションで使用する割合は、全体の4-5割です。一方で、日本人スタッフが1名に現地スタッフが数十名という環境で働く一部上場企業の日本人ビジネスマンもいます。そういった方は、自宅以外では、英語で全てのコミュニケーションをやり通しますので、英語のスピーキング力が飛躍的に伸びる傾向にあるように感じます。
企業の業態や日本人比率によって、英語のコミュニケーションレベルや、使用頻度は変わります。初めての海外就職であれば、日本人が多少いたり、通訳が常駐しているような企業で働くことも、言語ストレスを過度にかけない1つの方法です。
一方で、2〜3年で、英語をビジネスレベルに引き上げて、キャリアアップに活かしたいという強い思いがあるのであれば、思い切って自分の身をあえて快適でない環境におくことも、1つの選択でしょう。
多言語文化のインドは、日本人にとっても英語の実践がしやすい環境
英語を準公用語とするインド人にとって、英語がうまく話せない日本人とのコミュニケーションへのストレスはあまりないようです。なぜならインド人の許容力が高いことが1つの理由です。もう1つは、ビジネスでは公用語のように英語を使う彼らも、そもそもは英語ネイティブではなく、幼少からの英語教育と数々の実践を経て、四苦八苦して英語力を培ってきたことがその理由です。
そんなプロセスを理解しているインド人は、英語を話すことに自信を持てていない日本人の気持ちを英語ネイティブよりは理解してくれているのでしょうか。自信のないシャイな日本人でも「とりあえずなんとか喋って伝えてみよう!」という気持ちが生まれる、英語のコミュニケーションが実践しやすい環境と感じています。
インド英語まとめ
うまく話せないかもしれない、完璧じゃないかもしれないという固定概念を捨て、働きながら、生活しながら、実践で、英語力を身につけて行くことが使える英語を習得する一番の近道です。
もちろん、インドで英会話教室や語学学校等に通ってレッスンを受けることも可能です。インドアクセントが気になるようであれば、欧米人のネイティブや、日本人の英語ネイティブからレッスンを受ける場もあります。
週に2回英語クラスを受講している、JAC日本人スタッフ村山のクラスの様子をインスタグラムでポストしていきます。ぜひリアルなインド英語を見てみてくださいね!
▼JAC India 公式インスタグラムアカウントはこちら
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