インド自動車産業がアクセル全開!市場規模は1兆円越え!?

2015年12月中旬スズキは、インド西部のグジャラート工場に570億円の追加出資を決定するなど、ここ最近におけるインドでの自動車産業は、また盛り上がりを見せており、インド経済の成長の根底とさえなりつつあります。本記事では、自動車業界の盛り上がりから見る、インドの圧倒的な将来性についてデータで示していきます。

インド国内での自動車販売数は年々増加傾向にあります。図1において示されているように、全体として自動車の販売数は年々増加しています。四輪自動車は、2013年に一時的な停滞はありましたが、回復基調にあります。二輪自動車は増加が顕著であり、2014年度の販売数は、2009年度から70%以上増加しています。2015年末の段階では、インド政府の金融緩和を契機とした自動車ローンの金利の引き下げや各自動車メーカーの新車戦略により、消費者心理が過熱しています[1]。その結果、新車の販売数は6か月連続で増加[2]。SIAM(Society of Indian Automotive Manufacturers/インド自動車工業会)発表の『Automotive Mission Plan 2016-26』でも、GDPの12%を自動車産業が担うといった目標を掲げており、さらなる自動車産業への発展に力をいれています。自動車産業の発展にインド経済の成長がかかっているといっても過言ではないでしょう。


図1 インドにおける自動車販売数の推移 (SIAMより)

インドの自動車産業の変遷と現在

インドの自動車産業は、1990年代の自由化以後から大きく姿を変え、外資メーカーの競争が始まりました。インド独立後の1940年代には、タタ、マヒンドラなどの財閥グループを中心とした自動車産業が発展。長らく産業保護が中心的であったインド政府が、一部経済自由化したのは1980年代。この時、参入したのがスズキやホンダを始めとする日系自動車メーカーです。スズキは国営企業であるマルチウドヨグ社との合弁会社「マルチ・スズキ」として自動車を、ホンダはヒーロー社「ヒーローホンダ」として主に二輪を生産開始しました。現在でも先行者の利もあって、この2社は大きなシェアを誇っています。(現在はヒーローとホンダの合弁は解消されています。)

1990年代の自由化以後、特に2000年代に入ってからは様々な国籍のメーカーが参入。2002年には、新自動車政策が打ち出され、外資の出資の際の最低投資金額規制の撤廃や100%外資の参入が解禁されるなど大きな規制緩和がありました。2006年の「Automotive Mission Plan 2006-2016」では、2016年までに自動車生産で世界7位になる等の目標を掲げ、外資呼び込みのためにさらなる施策を打ち出しました。特に、100%出資で参入したヒュンダイ(韓国)は特徴的で、参入からシェアを伸ばし、2015年の12月ではマヒンドラ&マヒンドラ(インド)、タタ・モーターズ(インド)を抜いて自動車の国内シェアは2位となっています。[3] 図2は国内の四輪自動車シェア(乗用車・商用車の合計)を表しています。現在はマルチ・スズキとヒュンダイ合わせて過半数超えるシェアになっており、今まで二番手であったマヒンドラ&マヒンドラはシェアを落としました。


図2 インドにおける各メーカのシェア (マークラインズより作成)

四輪自動車産業は新車販売を伸ばし盛り上がりを見せてはいますが、四輪の市場は依然成長の途中であり、インド国内ではむしろ二輪自動車が主流の交通手段なのです。SIAMによると、国内の車種別シェアでは、二輪が80%近く占めている一方、乗用車の割合は13%とあまり大きくありません。二輪の販売数の増加は、中間層の形成が大きな要因です。しかし、中間層のさらなる拡大や道路等のインフラの整備とともに、徐々に四輪自動車のシェアは増加していくのではないでしょうか。

中間層の形成による自動車内需の拡大

インドでは、中間層が形成されているとニュース等で良く見かけますが、どれぐらいの規模間なのでしょうか。図3によると、現在の中間層は人口の25%ほどです。2030年には50%を超えることが予想されています。一人あたりGDP2,500米ドルが自動車普及(モータリゼーション)の目安とされていますが、2014年の時点で約1,500米ドル程度で[4]、時間がかかることが予想されます。


図3 所得層別人口の推移(出展:在インド日本大使館 インド経済資料より)

しかし、PwCのレポートによると、新興中間層は2021年までには、5億7000万人規模へと成長し、およそ1兆ドルの市場を構成することが予測されています。これは、GDPの28%ほどの規模です。レポートによると、新興中間層は憧れに動かされて購入する傾向があり、消費動向は少しづつ変わってきているようです。消費者の支出のおよそ20%が必需品以外の商品・サービス(耐久消費財、衣料品、化粧品等)に移っています。こうした動向の変化は、自動車、特に二輪の販売増加の要因であると考えられます。

内需主導の産業構造

インドは人口大国であり、その人口の多さに起因する内需の拡大は産業構造に影響を与えていると思われます。『通算白書2014』によると、インドの自動車産業は国内市場に軸足を置いたものとなっており、同じ自動車が主要産業の一つとなるメキシコ、タイと比べても産業構造に違いが見受けられます。比較をすると、メキシコは「輸出」をメインに、タイは「国内と海外市場の両方」に軸足を置いています。メキシコは、1986年のGATT(現WTO)加盟以来自由化政策をとり始め、米国に隣接するという優位性もあり、1994年のNAFTA加盟でその傾向をさらに強めています。メキシコの地理的要因が、「輸出」メインの産業構造を生み出した一因であることは間違いないでしょう。

しかしながら、タイとインドでは、本格的な自由化の時期がそう変わらないことや地理的な優位は小さいにも関わらず(むしろインドの方が地理的には優位があるかもしれません)、この産業構造の違いはどこにあるのでしょうか?

内需中心の理由は二つあると思われます。

1.地場メーカーの有無

一つ目にタイには地場のメーカーがなく、トヨタ等の日系ブランドを受け入れる形で自動車産業を育成した点が挙げられます。1960年の日産の組み立て生産の開始を皮切りに、日系メーカーが次々と参入しました。その結果、現在に至るまで日系がプライオリティを持ち続け、図3で示されているように、自動車国内販売のシェアでは全体の8割以上を占めています。また、現在タイでは生産だけではなく、研究開発の拠点としても注目が集まっています。2007年のトヨタやデンソーが進出したのは象徴的です。[5] 日本車の生産ハブとしての歴史が長いのが、タイの自動車産業では特徴的です。対照的に、インドにはもともとタタ、マヒンドラ、ヒンドゥスタン等の財閥系の地場のメーカーが存在しました。その上、一部自由化の1980年代のインド政府の方針を受けてか、合弁会社という形の外資受け入れが進めてこられたことも無視できない要素です。[6]

 

2.人口増加からの国内需要

二つ目に国内需要の差です。インドには12億もの人口があり、今まさに中間層の形成がなされている最中。一人あたりGDP は、モータリゼーションの基準である 2,500USDには届かないですが、成長率は著しいことを考えると大きなポテンシャルがあります。タイは6,800万人という人口であり、インドに比べれば市場としての魅力は小さいのです。タイはASEANの生産ハブであり、その意味で日本にとっては一番に抑えておきたい土地でした。インドも中近東・アフリカという市場を見た場合に避けては通れない重要拠点ではありますが、それ以上に市場の大きさという部分がクローズアップされ、生産ハブというよりはパイをとっていきたい市場という位置づけが大きいのです。その位置づけは、国内外メーカーに共通するものです。


図4 各国の日系自動車メーカーのシェア (経済産業省『通商白書2014』より)

モディ政権の中心政策「Make in India

モディ政権の中心的政策「Make in India」以後の自動車産業は、FDI(Foreign Direct Investment/外国直接投資)の積極的な呼び込みに成功しています。自動車産業に対するFDIは、昨年比の2倍以上。背景としては自動車産業における大幅な規制緩和が行われたことが挙げられます。MakeinIndia.comによると

・100%のFDIが自動承認ルートで認められており、製造と輸入に関してはライセンスや認可が免除。
・自動車産業に関しては、インド国内でのR&Dをする企業には一定の税免除と土地代への補助金

などインドの自動車産業へ投資する国内外の企業への様々な優遇策がとられました。
こういった積極的な外資喚起は、驚くべきFDIの増加をもたらしました。図5で示されているとおり、産業別FDIでは2013年度と14年度を比較すると自動車産業へのFDIはなんと約8億3000万米ドルから21億8900万ドルの2.5倍の伸びを見せています。こうした、驚くべきFDIの増加はインドの自動車産業の好調の大きな要因です。


図5 FDIの増加(成長の著しかった産業の前年度との比較)(出典:Economic Times

輸出用自動車について

前述したとおり、インドの自動車生産の多くは国内向けのものです。しかしながら、「Automobile Mission Plan 2006-16」などの政府が掲げる目標の一つに輸出の奨励があり、長期的には輸出用の自動車の増加が見込まれます。マルチスズキをはじめとしたメーカーは、国外向けに「メイドインインディア」の車の生産を始めています。スズキの小型車「バレーノ」は、日欧をはじめとする世界100ヶ国以上への輸出を予定しています。[7]また、スズキはグジャラート工場に570億の追加出資をする予定[8]であり、同工場はアフリカ・中近東・欧州への輸出拠点として期待されています。

インドからの輸出は、2000年から2013年までの間に、2億4300万ドルから58億8000万ドルと急激な成長を見せています。また、世界同時不況の影響から、EUへの依存が大きかった輸出額も、ASEAN・中近東地域へのシフトが見受けられます。


図6 インドの輸出相手先(出典:『通商白書2014』)

こうした主要輸出国の変化は、経済協定を主にアジアと結んできたのも一つの要因だと考えられます。現在、インドはSAARC(南アジア地域協力連合)に加盟中です。また、アジアを中心に11か国との二か国間の経済協定を結んでいます。ASEAN、MERCOSUR(Mercado comun del sur/南米南部共同市場)等の5つの地域協定との協約をしています。[9]

しかしながら、輸出先としてはアジアではなくその他の地域への輸出が増えています。インド産自動車の最大の輸出国である南アフリカは、トヨタやホンダ、マルチ、フォードなどがインドで生産した車を多く輸入しています。[10] 現在、南アフリカ関税同盟との経済協定も交渉中であり、結実すればインドからの輸出の一番多い南アフリカへの輸出は更に増えることが予想されます。

新興国のひとつであるメキシコもインド車の主要な輸出先です。フォルクスワーゲン(ドイツ)は55,000台、ゼネラルモーターズ(米国)は45,000台と各社メキシコへの輸出を伸ばしています。14-15年度では、82,000台の輸出だったのに対し、15-16年度では13万2000台もの輸出が予想されています。インド最大の経済紙「Economic Times」では、インドにとってメキシコが最大の自動車市場になると予想されています。

これからの10年間

Automotive Mission Plan 2006-2016』の総括

インド自動車商工会(SIAM)の発表した『Automotive Mission Plan 2006-16』では、06-16の10年間で自動車産業がGDPの10%以上を占めるようにするという大胆な目標を掲げられました。同レポートによると、14年会計年度では生産GDPにおける45%が自動車産業のものであったそうです。自動車産業の占める割合がインドのGDP7.1、総輸出の4.3%。2006会計年度から19万人の雇用創出自動車及び自動車部品への投資額が350等、インド経済における自動車産業の重要性が見て取れます。GDPの10%という目標には届きませんでしたが、多くの実績を残しています。

2006-16年度の好調振りを受けて、『Automotive Mission Plan 2016-2026』がSIAMにて発表され、下記のような挑戦的な目標を掲げています。

・インドGDPの12%
・10年間での輸出の35〜40%増加
・2500万人の雇用創出
・1兆5750億ルピー超の国内外OEM(Original Equipment Manufacturer/相手先ブランド製造)からの投資
・小型車のグローバルハブ化
・6500万人の雇用創出

等の更なる飛躍を掲げ、インドの自動車生産のハブ化を狙う動きが見られます。

今後の各メーカーの動き

1.大気汚染対策への各メーカーの対応

・近年の交通量増加も一因となり、いよいよ無視出来なくなってきたインドの大気汚染。2016年始の交通規制や大型ディーゼル車の登録禁止等に代表されるように、インド政府の排ガス規制がより積極的になっています。

2016年1月7日のBloombergによると、最高裁は1月から3月の首都圏での大型ディーゼル車の登録禁止を続行することを決定しました。2015年に販売された民間車の37%がディーゼル車、SUVに関しては90%以上がディーゼル車です。規制の影響は非常に大きいものとなるでしょう。

インド政府は、環境規制レベルをBSⅣ(Bharat Stage:環境規制の基準)からBSⅤへの引き上げを取り止めることに決定しました。次の引き上げは、2017年から延長になり、時期は2020年になりそうです。また、次の引き上げ時には、BSⅣから一つとんだBSⅥの基準になります。

現在のBSⅣはEuro 4という基準に対応し、次の引き上げのBSⅥはEuro 6に対応します。ボッシュによると、「Euro 6の厳しい規制値をクリアするために排出ガス浄化システムを完璧に調整する必要性」があり、各社は規制値をクリアにするように対応が迫られます。Car-me.jpによると、Euro6の「基準に合わせられない乗用車は、新たにエンジンを開発するか、後処理装置を追加するなど、より向上した技術開発を通じて基準を満たすか、車の生産を打ち切るかいずれかの選択をする必要がある」とのこと。規制により高価なパーツが必要とされるため、自動車の値上げが予想され、各メーカーの技術開発力が問わるのではないかと思われます。

2.各メーカーの新たなターゲット層への戦略

また、近年各メーカーは、富裕層をターゲットとした新車販売や販売網の強化を図っています。

マルチ・スズキは、SUVの「S‐Cross」や海外を主なターゲットとした小型車「バレーノ」を、国内の富裕者向けディーラー「NEXA」での販売を始めています。ルノー(フランス)は、高級小型車「KWID」を発売。日経産業新聞によると、ルノー社は「KWID」効果により2015年11月の売り上げが前年度比144%増。トヨタは、富裕層向けの「レクサス」の販売を2017年から予定し、新たなターゲット層へのアプローチを始めています。高級車市場への注目は今後更に高まっていくものかと思われます。

 

まとめ

インドの将来性は、生産ハブとしてのインドと莫大な人口を抱えたマーケットとしてのインドという二つの視点で見ることが必要となりそうです。

生産ハブとしてのインド

インドが商業ハブとして成功するか否かに関しては、輸出用自動車の成功は大きな鍵となりそうです。14-15年度の自動車輸出は前年度から12%近く輸出額を伸ばしています。また、現在交渉中の多くの経済協定の行方によっては、中東や欧州、アフリカへの足掛かりとして重要さを増すことになります。GCC(湾岸協力会議)やSACU(南アフリカ関税同盟)、EUとの交渉は難航していますが、交渉の結果によっては更に生産拠点として重要な位置を占めると思われます。

12億の人口を抱える消費地としてのインド

インドの内需の成長は、平均給与の伸びや消費支出の伸びに見られるように右肩上がりです。また、中間層は2030年には50%を超えると予測されており、大幅な消費拡大が予測されています。自動車需要もさらに伸びることが予想されますが、急激な伸びは見られない可能性もあります。モータリゼーションの基準の一人あたりGDP2,500米ドルに到達するには、少々時間がかかることが予想されます。

消費者支出は2011年から2倍になっており、世界有数の消費地として期待されている一方で、12億人の人口全てが商品・サービスのターゲットになるわけではなく、しっかりと的を絞ったビジネスを展開することが肝要です。しかし、大気汚染の問題もあり、ディーゼル車への規制を始めとする自動車への規制はますます強まっていくことが予想されます。自動車規制によりどう各メーカーが対応していくのか、これからが注目です。


インドの第二次産業は、自動車業界の未来にかかっているといっても過言ではありません。雇用創出という面でいえば、サービス産業での経済成長は第二次産業よりも圧倒的に創出効果は小さいと言われています。そういったこともあり、自動車産業の10カ年計画では雇用創出がクローズアップされています。雇用創出が国民の平均給与を上げ、国民の消費を増やすことにつながります。

内需に比べると徐々にではありますが、輸出も増加傾向にあり、外資系メーカーの輸出拠点としての地位は高まりつつあります。日本にとっても中東、アフリカへの足掛かりとして一つ重要な拠点ではあります。徐々にではありますが、着実に経済成長を続けており、引き続き注目するべき国のひとつであることは間違いないでしょう。

注釈

[1] 日経産業新聞 『インド新車販売 好調続く』 2015年12月16日
[2] マークラインズ 自動車販売台数速報2015
[3] [6] マダブ・プラサド・セダイン 『インドの自動車産業におけるM&A』 創価大学経済学研究科
[4]World Bank
[5] 黒川基裕『タイ国自動車産業の歴史的変遷』 国際貿易投資研究所(ITI) 季刊 国際貿易と投資 Summer 2015
[7] 日本経済新聞 『スズキ世界戦略車、100カ国に輸出 日本にも インドで発売』 2015年10月27日
[8] 日本経済新聞 『スズキ、インドの生産子会社に570億円追加出資 設備投資に充当』 2015月12月18日
[9] JETRO WTO・他協定加盟状況 インド (二国間協定先は、スリランカ、アフガニスタン、タイ、チリ、シンガポール、ネパール、韓国、ブータン、バングラデシュ、マレーシア、日本の11か国。地域協定では、ASEAN、MERCOSUR、SAFTA、BIMSTEC、APTAの5地域協定と自由貿易協定を結んでいる。)
[10] Response.com 『メキシコ、インドからの最大自動車輸出国に』 2015年8月21日

参照サイト
Society of Indian Automobile Manufactures
在インド日本大使館

https://palette-in.jp/20171121-097-specialrecruitment/

 

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