インドでは、新型コロナウイルス累計感染者数が800万人に迫り、世界トップも目前となるなど厳しい状況が続いていますが、そんな中でも、インドの医療現場で活躍している日本人女性がいます。
お話を聞かせてくださったのは、インドで医療費のキャッシュレス・サービス、病院予約・院内同行サービス、日本語通訳サービスを提供するP.I.PRESTIGE INTERNATIONAL India Pvt.Ltd.で働く、鈴木みのりさんです。
新型コロナウイルスの感染拡大が叫ばれるインドにおいて、日本に帰国せず最前線で働き続けています。今回は、そんな彼女だから話せる、インドの医療現場のリアルをお届けしたいと思います。
これからインド就職を検討されている方、インドでの新型コロナウイルスの感染拡大を不安視されていらっしゃる方は、是非ご覧いただき、参考にしていただければと思います。
インド、コロナ禍における医療現場のリアルとは
―インタビューをお受けいただき、ありがとうございます。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないインドの医療現場で働かれていますが、現場はどのような状況でしょうか?
皆さんご存じの通り、インドでは感染者数が伸び続けており、当地の日本人感染者数も同様に増えています。
―ここデリーNCR(首都デリーと近接都市を含むエリア)は、インド全土でも日本人が一番多く居住されていますし、今後は日本からの帰国組による日本人の感染者数増加が予想されます。
はい、日本人の母数が増えると、自ずと感染者数も増えると考えられます。
新型コロナウイルスに感染した疑いのある患者さんへの対応は、今まで以上に感染対策の配慮や病院との強固な連携が必要になります。一度にたくさんの感染者が出た場合に備えて、既に病院との連携や受診フローなどを準備しています。
―新型コロナウイルスに感染している疑いがある方へは、現在どのように対応されているのでしょうか?
検査段階まではいつも通りアテンドさせていただいていますが、陽性発覚後は患者さんとのface to faceでの対応を最小限にしています。
このように直接コミュニケーションが取れない中、診療や入院の手続きを進めなければならないのは大変です。直接目で見てお話しできず、もどかしい気持ちでいます。
また、新型コロナウイルス対応においては、今まで以上に病院との密な連携が必要になります。ゆえに、1人の患者様に対する時間が長くなるので、限られたスタッフ数でも滞りなく業務を続けられる体制を整えています。
現在、弊社ではインド全土7拠点で24時間365日、日本語で対応をしています。
医療従事者は、コロナ感染予防のための防護服に身を包み業務にあたる
―新型コロナ禍で起きた印象的な出来事は何でしょうか?
仕事に関して言えば、患者様の来院手段を調整したことです。
これまでだと、日本人の方はご自身の車で来院されていたのですが、新型コロナウイルス感染の疑いがある方については、同乗するドライバーへの感染リスクもあるため、こちらから救急車を手配して来院いただきました。
車で来院された方の中には、病院までの道中で警察に車を止められるなど、不安な思いをされた方もいらっしゃいました。
そのため、いつでも救急車を手配できる仕組み作りを早急に進めました。我々のスタッフが常駐している病院だけではなく、複数の救急車手配会社と連携することを意識しましたね。
インドでは日本と違い、病院が救急車を持っているだけでなく、救急車手配事業を行っている民間企業があります。それら企業との連携を密にすることで、いつでもすぐに救急車を呼べるようにしています。
―在インド日本人の方で新型コロナウイルス感染者は出ているのでしょうか?
これまで弊社では数名の新型コロナウイルスに罹患した日本人の方を対応させていただきましたが、皆さん無事に退院されました。
現状、弊社で対応している範囲では、インド全土で週に数人が新型コロナウイルスの症状を主訴に来院されていますね。
医療従事者と患者間の接点となる受付やカウンセリング室には、パーテーションが設置されている
―そうすると、業務量も増えて現場はかなり大変ですよね。
そうですね。このほか、日本をはじめインド国外に出るためや、インド国内での移動のために、陰性証明書を取りにいらっしゃる方も増えています。
また、陽性者と濃厚接触をしたために検査を希望される方もいらっしゃいます。
インド全土では日本に比べてPCR検査が受けやすい環境にあります。日本人などの外国人が行く私立病院でも同じで、症状の有無に関わらず検査を受ける事ができます。
また余談ですが、インドで受けるPCR検査は日本に比べて安価です。インドでは約3,000ルピー(約4,300円)ほどで受けられます。
インド人は、新型コロナをどう受け止めているのか
―では、インド人は新型コロナウイルスの感染拡大をどのように受け止めていると感じていますか?
インド人だからと一括りにはできないですね。本当に様々です。
身近な弊社のインド人スタッフについて言えば、指導を徹底していることもあって感染予防がしっかりされています。
インド人は祖父母や両親、兄弟など大家族で住んでいることが多いので、病院で働く弊社スタッフは特に、家にウイルスを持ち込まないように細心の注意を払って働いています。親戚に会うことも控えているようですね。
インド全体で見ると、ロックダウン時期は恐怖心から自宅にこもっていた人たちも、アンロックとなった今はレストランなども開いているため、外に出かけることが増えています。
マスクを着けずに出歩いている方を見かけることもあり、感染予防への意識低下を感じています。
―インドの街の様子はどうでしょうか?
感染対策と貧困問題は密接に結びついていると感じています。
どうしても貧困層は知識、教養がないため、十分な感染対策ができていません。基本的なところで言うと、マスクの着用を徹底できていないことなどが挙げられます。
その他だと、中国との国境付近で緊張が高まったことなど、新型コロナウイルス以外の大きなニュースがあるとそれに気を取られ、コロナへの危機意識が薄れているようにも感じます。
また、病院内の変化としては、ロックダウン時はER(Emergency Room)のみの稼働で来院される人も少なかったですが、今では殆どの診療科が再開しているため、院内の人の数も増えました。
新型コロナ禍のインドにおいて、安全に生活するには
―新型コロナ禍のインドでは、どのように仕事をされていますか?
ロックダウン中は自宅でリモートワークをしていました。外出もできませんでしたね。ただ、アンロックになってからは、医療現場で働く者として毎日出勤しています。
病院では、万全の感染予防をして働いています。具体的には、マスクの着用や手洗い、手指消毒、うがいなどです。
また、自身の予防対策をするだけでなく、インド人スタッフに対する感染予防指導にも力を入れています。
―生活はどうでしょうか?安全ですか?
ロックダウン中は閉鎖されていたショッピングモールやレストラン、バーなどがアンロックによって営業できるようになってきており、ロックダウン以前の状態に戻りつつあると感じています。
ただ、そんな中でもマスクをしないで三密空間に出かけるインド人も見受けられ、危機意識の低下は心配しています。
私個人としては、出来る限り不要不急の外出を控えています。うつらない、うつさないためにも充分に注意をして生活しています。
―コロナ禍のインドでの過ごし方について、医療従事者目線のアドバイスをお願いします。
基本的なことですが、まずは1人1人が手洗い、うがい、マスクを徹底して、三密を避ける行動を取ってもらいたいと思っています。
インドでは今まで『予防』という観点が少なく、例えば大気汚染の著しい中でもマスクをつけていらっしゃる方も見受けられませんでした。
日本だと、風邪をひかないようにマスクをする、インフルエンザの時期にうつらないようにマスクをする、といった当たり前の行動ですが、こちらでは浸透していません。
そのため、より一層1人1人が感染予防を第一に考えて行動する必要があると感じています。
―それでは、今後インド渡航を考えている日本人に伝えたいアドバイスはありますか?
インドのマスクは薄いなど性能が低いことが多いので、安全な日本製のマスクをご購入されていらっしゃる事をお勧めします。ただ、渡航後も日本製と同品質のマスクは購入可能ですので、安心していただければと思います。
また、弊社として、インド渡航前のお客様に安全確保のためにご案内している内容としては、以下の2つがあります。
- 持病がないか確認する(ある場合には、主治医や産業医に判断を仰ぐ)
- 健康診断を受け、健康状態を確かめる
そのほか、費用はかかりますが日本でPCR検査を受け、陰性証明書を持って渡航されることをお勧めします。
なぜなら、日本のPCR検査による陰性証明書があると、ホテルでの14日間隔離ではなく、自宅での14日間隔離が許されるからです。
また、現在は東京、デリー間しか航空便がありませんが、デリーから他の地域に行かれる方でも、デリー到着後に隔離されることなくすぐに移動できて、最終目的地での隔離が許されています。
コロナ禍のインド医療現場で、働き続けられる理由とは
―インドの医療現場で働くということは、経験している人にしか分からない様々な苦労があると思います。しかし、今回お話を聞いていると、鈴木さんが予想以上に明るく前向きに働かれていることに驚いています。そのように働ける理由は何でしょうか?
今の苦しい状況下で医療に携わり、働くことに使命感を持っているからだと思います。今すぐに日本に帰りたいという気持ちはありません。
私は元々、日本で看護師として働いていて、当時から目の前の人を救える私で在りたいと思ってきました。新型コロナウイルスという目に見えない敵と戦わなければならない今だからこそ、インドで働けることにやりがいを感じています。
また、日本語で見聞きできるインドの医療現場に関する情報には、限界があると感じています。どうしても感染者数が独り歩きしてしまい、肝心の病院のひっ迫状況やPCR検査の情報などが見えづらくなっているからです。
リスクがある状況下でもインドにいらっしゃる日本人の皆さんをサポートしたいと強く思っているので、今後も現地にいる医療従事者ならではの視点で情報収集を継続し、お客さんに提供をしていきたいと思っています。
―新型コロナに関する情報収取で苦労していることはありますか?
私たちが拠点を持っていない地域、州での情報取集ですね。
インド政府や州政府に問い合わせるのですが、なかなか電話に出てもらえず、時間がかかってしまいます。そんな中でもインド人スタッフとも協力して根気強く情報を取るように心がけています。
―世界では、医療従事者の方が精神的・肉体的疲労を感じながら働いていると聞きます。鈴木さんはどうですか?
今のところ、医療現場で働く事に関して不安を感じることはありません。
その理由としては、会社がフェイスシールドなどの感染対策用品をきちんと支給してくれていること、そしてスタッフみんなで感染予防を徹底しているという自負が大きいと思います。
ただ、私たち日本人よりも、インド人スタッフの方が不安に思っていると感じています。
先程もお話しした通り、インド人は大家族で住んでいることが多いので、自分の感染だけでなく、家族に感染を広めてしまうのではないかという点を危惧しているからです。こういった不安を抱えているインド人スタッフのメンタルケアは、注意深く行っています。
具体的には、日本人スタッフが毎朝のミーティングでフォローしたり、他拠点のインド人スタッフ間で意見交換会や勉強会を設けたりしています。今後もインド人スタッフの不安を取り除けように工夫していきたいと思います。
―このほか、鈴木さんは他の日本人スタッフと共に新たな試みもされていると聞きました。
はい、弊社には私のほかに2人の元看護師スタッフがおり、彼女らと連携してインド人スタッフ向けと、日本人のお客様向けに新しい取り組みを始めました。
インド人スタッフ向けには、予防の観点がないインド人にも手洗い、うがいの大切さや正しい方法を知ってもらうための講習会を開いています。
日本人のお客様向けには、メンタルヘルスケア・アンケートにご協力いただき、その結果をご報告させていただいています。そうすることで、悩んでいるのは自分だけじゃないということを知ってもらえたり、企業の対応として新たな気づきを得ていただいたりしています。
―最後に、P.I.PRESTIGE INTERNATIONAL India Pvt.Ltd.について教えてください。
私たちのモットーは『医療分野で困っている日本人皆様を、精一杯サポートすること』です。
この考えの元、会員でない人でも弊社の病院予約・院内同行サービス、日本語通訳サービスをご利用いただけるシステムを構築しています。会員でない方の場合には、別途サービス費用を頂く形で対応しています。
もちろん、海外旅行保険に契約している、日本本社間で弊社との契約がある、現地法人間で弊社との契約があるという会員制度もご用意しております。
このようにサービスをご提供する中では、日系企業として「痒い所に手が届くサービス」を心がけています。基本的な話し方や歩くスピードなどの細かなところまで、インド人スタッフに指導して、日本人に喜ばれるサービスを追求しています。
具体的に申しますと、弊社のインド人スタッフは日本語検定を取得しているのですが、それでも医療用語などは難しく、苦労します。日本人にとって違和感のない言い回しになるように、細かく指導しています。
また、歩くスピードについては、私たちのお客様は体調の優れない方々なので、的確に診察場所まで案内できるように右斜め前をゆっくり歩くように指導しています。このほか、座っているお客様の前ではしゃがみ、その人の目線になって話すことなどを指導しています。
細かいことではありますが、日本人の皆さんにとって気持ちの良いサービスがご提供できるように、スタッフ一同、日々努力を続けています。
ですので、インドで医療関係のお困りごとがございましたら、是非お気軽にご相談ください。日本人に寄り添ったサービスをご提供させていただきます!
P.I.PRESTIGE INTERNATIONAL India Pvt.Ltd.
日本人の皆さまへ医療費のキャッシュレス(海外旅行傷害保険付帯、ヘルスケアプログラム)、病院予約・院内同行や日本語通訳のサービスをご提供しております。日本人のケアにあたるチームの方々、インド人の方も日本語OK
インド主要都市の病院に拠点を置き、エリア内の各病院へ出張の上でサービス対応をさせていただいております。第一報を各エリアの窓口(日本語対応)までお電話をいただければ、病院予約を進めさせていただきます。
営業時間は平日8:30~17:30ですが24時間365日お電話を日本語で受付しておりますので、緊急の際もご連絡を下さい。
連絡先一覧
※隔離やPCR検査費用など、本記事の情報は掲載当時のものになります。最新情報については適宜ご確認ください。
最後に
インドでは、6月から経済活動再開を目的にアンロック1.0が始まりました。
10月でアンロックも5.0になり、メトロが段階的に再開したり、スポーツや娯楽、宗教などの集まりで100人規模まで許可が出たりと、さらなる緩和が見られ、インドでも新型コロナと共に生きる生活が常態化しつつあります。
日本からの帰国組や、新規現地採用者の増加が見込まれる今後、インドの医療現場では引き続き、困難な状況が続くことが予想されます。そんな状況の中、インドで挑戦を続ける日本人に、安心と安全を提供してくれるPRESTIGE INTERNATIONAL INDIAスタッフの存在は、われわれの心の拠り所だと言えるでしょう。
インドの累計感染者数が800万人に迫る勢いであることが報道されるなど、これからインドで働くこと、生活することに不安を感じている方も多いと思いますが、今回の記事でインド医療現場のリアルを知ってもらい、少しでも不安を払拭していただければと思います。
JAC Indiaでは、皆さんの挑戦を応援しています!