インド在住者から見る、2022年のインド治安状況

パンデミックが落ち着き、インド渡航を予定する方も増えてくるのではないでしょうか。

ポストコロナとなったインドでは 8.9%の経済成長率(世界銀行発表)へ回復し、日系企業のインド進出数も回復、現地採用者や帯同家族も増加傾向にあります。

ここでは、デスクトップリサーチから得られる情報を元に、日本から見えるインドの治安・危険度と、インド在住の日本人からみたインドを比較し、インドの治安状況とインドで安全に過ごすための対策についてご紹介します。

本記事作成にあたり、インド在住日本人2名、インド人1名にインタビューを実施しました。

 

・Palette 編集部 荻野
インド・グルガオン在住9ヶ月目の現地採用。インドには大学時代に旅行で来たことがあり、危機回避をしながらローカルに近い旅行をするのが好き。

・インド在住駐在帯同者 Eさん
4歳と7歳の子供をインドで育てている、グルガオン在住3年目の駐在帯同者。自他共に認める心配性の性格で、インド生活でも工夫をしながら安全に生活することを目指している。

・Palette 編集部 インド人スタッフSuchita
インド南東部に位置するオリッサ州出身で、グルガオン在住22年目のZジェネレーション。

 

2022年、日本から見えるインドの治安・危険度

日本とインドの大きく異なる点に、様々な宗教、文化、人種の混在が挙げられます。インド特有の独特な文化はとても魅力的ですが、一方で民族間の対立や過激派の暴動の原因にもなっています。

日本の外務省では、インドのほとんどの地域を危険レベル1と設定し警鐘をならしています。治安情勢を総合的に判断し、中長期的な観点から「その国・地域への渡航、滞在に当たって危険を避けていただくため特別な注意が必要です。」とレベル1を定義しています。

尚、留学先としても人気のあるフィリピンインドネシアも、インド同様レベル1の危険度とされており、危険レベルの中でもっとも低いレベルとは言え、2022年の現在でも手放しに安全に渡航できる国々ではないことがわかります。

 

インド 治安 危険度

参考|外務省海外安全ホームページ
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2022T048.html#ad-image-0

 

日系企業も多く集まる都市部や観光地では特に、窃盗、詐欺、強盗や強姦などの犯罪が危険視されています。

2012年にデリーで起こった集団レイプ事件を題材とし、2019年にNetflix で公開された『デリー凶悪事件』も記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。メディアが発信している情報と現実に、大きな乖離がある訳ではなさそうです。

 

数字で見る!インド犯罪数や種類

インド 犯罪 治安

参考|Crime rate across India in 2021, by major city
https://www.google.com/url?q=https://www.statista.com/statistics/633155/reported-crime-rate-in-major-cities-india/&sa=D&source=docs&ust=1668352205343184&usg=AOvVaw2bhMDnJvUMjSRLpz90Zy-w

 

Statista の報告によると、インドで2021年に最も多くの事件が通報された都市は、日本人も多く住むデリーでした。1年で人口10万人あたり1,859件の事件が通報されており、当時の人口から換算し、年間およそ38万件と考えられます。人口当たり事件率は1.84% です。

一方で、2021年の東京都の刑法犯の認知件数が約7万5,000件当時の人口換算で、人口当たり事件率0.5%という結果です。

人口が密集する同じ大都市ではありますが、デリーの事件率の高さは東京の3.6倍以上になります。この結果からも、日本での暮らしよりも細心の注意を払う必要があるといえるでしょう。

 

インド 治安 犯罪

参考|Number of crimes committed against foreigners in India in 2021, by category
https://www.statista.com/statistics/1103666/india-crime-against-foreigners-by-category/

 

同年に報告されている外国人が遭遇した事件で、最も多かったのは窃盗でした。被害に遭った半数以上がインド在住者ではなく、インドへ来た旅行者です。企業の駐在員や帯同者は社用車が支給されることが多く、生活のほとんどが車移動です。このため、外で一人で出歩くことも少なく、このような結果になったと考えられます。

次いで、レイプ・詐欺・交通機関での被害も目立ちます。これらにおいては、旅行者よりも在住者の被害報告が多く、日々気をつけていても巻き込まれる可能性の高い事件といえるでしょう。

インド 治安 推移

参考|Total number of rape cases reported in India from 2005 to 2021
https://www.statista.com/statistics/632493/reported-rape-cases-india/

 

インドにいる外国人も被害に遭っている、レイプ事件件数の推移です。2005年から2021年にかけて、徐々に事件件数が増えていることがわかります。パンデミックで厳格なロックダウンが施行されたことから、2019年〜2020年は減少傾向にありますが、2021年には前年比でおよそ3,000件増加しています。

インドでは、レイプ事件においては加害者よりも被害者に汚名を着せられることが多く、正当な司法制度で裁かれていません。特に都市部以外では、家父長制の文化が根深く残っており、貧困や識字率の低さが女性の立場の弱さを助長し、このような事件の減少に歯止めをかけています。

 

2022年|インド在住者が実際に遭った治安問題

ここからは、インド在住の日本人を代表して、Palette 編集部 荻野と、駐在帯同者のEさんの対談、そしてPalette 編集部インド人スタッフのSuchita の体験談を基に、実際に遭遇した治安問題をご紹介します。

 

窃盗の被害に遭ったことはありますか?

 

Palette 編集部 荻野

携帯を盗まれそうになったことがあります。夜21時頃にオートリキシャに乗って携帯を触っていたら、後ろからバイクが近づいてきて盗られそうになりました。幸い背後から近づいてきたことに気が付いたので、盗られることはありませんでしたが驚きました。

 

車移動中に被害に遭ったことはありますか?

 

駐在帯同者 Eさん

年間契約をしているドライバーは毎日顔を合わせるので、いつも安心して乗車をしているのですが、一度トラブルに巻き込まれそうになったことがあります。他のタクシー運転手と自分のドライバーが言い合いになり、車の外で喧嘩が始まりました。ドアと窓にロックをかけ、外に出ないようにしたので直接の被害には遭いませんでしたが、言葉がわからないので不安でいっぱいでした。

 

夜間出歩いていて危険を感じたことはありますか?

 

Palette 編集部 インド人スタッフ Suchita

自宅付近は街灯が少なく、暗くなってからは一人で出歩くことを極力避けています。ある時友人と午後8時半頃に自宅周りを歩いていたところ二人の見知らぬ男性に追いかけられたことがあります。追いかけられていることに気が付き走って逃げましたが、自宅の場所を知られてしまったのでとても怖かったです。

 

インドの治安は改善傾向にある

インド全体の事件件数から鑑みても、被害に遭っているのは外国人だけではありません。インドで生まれ育ったインド人も、インドの治安問題から自分の身を守るために、最低限の注意を払いながら生活をしています。

インドの生活情報を発信するメディア India Todayによれば、過去二年間でデリーの殺人事件数は12%減少しています。窃盗件数は2021年から2022年にかけて60%減少しており、これは予防逮捕や監視制度の強化の効果であると分析されています。

 

インド 治安 防犯カメラ

参考|CCTV Surveillance Is Rising in India, World, but Crime Rates Remain Unaffected, THE WIRE
https://thewire.in/rights/cctv-surveillance-is-rising-in-india-world-but-crime-rates-remain-unaffected

 

さらに、インドの警察により設置された防犯カメラの数は2013年から2020年にかけて急激に増加しており、国をあげて監視体制の強化がされています。2013-14年に警察が設置したカメラの総数は18,000台でしたが、2019-20年には460,000台に達しています。インドの防犯カメラ市場は2021年から2026年にかけて年間平均成長率22.35%と予想されており、監視体制はさらに強固なものになるでしょう。

 

インド在住者が紹介!インドの安全なところ

海外で治安に対する不安はつきものですが、テクノロジーの力やインド特有のカルチャーを活用することで、安全に過ごせるようになってきていることも確かです。

 

タクシーアプリで夜間の移動ができる

インド都市部で利用されているタクシーアプリのUberOlaは、運転手の個人情報が登録されています。緊急時はアプリ運営会社のコールセンターと24時間通話が可能です。

移動中の情報を友人や家族に共有できる機能もあり、夜の移動時にはこれを活用することをお勧めします。

 

スクールバスの位置情報がGPSで確認でき、出席確認が取れると親にメールが届く

インドの外国人が通うインターナショナルスクールでは、スクールバスで通学する子供が多く、学校がスクールバスの位置情報を共有できるアプリを導入しています。交通渋滞や道路規制など予測しない事態が多々ありますが、子供の現在地をLIVEで確認することができます。また、子供の出席有無はメールで確認が取れるため、スクールバスに置き去りにされてしまうような事件も防げるでしょう。

 

マンション住人のコミュニティに入ることで、困った時に助け合える

インド・グルガオンに住むインド在住者の多くは、集合住宅に住んでいます。ほとんどの集合住宅が独自のコミュニティを持っており、毎日オンラインコミュニケーションが頻繁に取られています。おすすめの病院情報やちょっとした困りごとなどについて、気軽な質問が飛び交っています。

インドは、家族やコミュニティの仲間を大切にする文化が根強く、強い信頼関係が特徴的です。

 

インド コミュニティ

インド コミュニティ

インドで安全に暮らすために今日からできること

インドの凶悪事件がメディアで取り沙汰されることも多く、インド渡航に不安を抱える方もいらっしゃるかと思います。デリーの事件数は東京の3.6倍という驚異的な数字ではありますが、2022年現在、インド在住日本人は日々安全な生活を送っています。

最後に、インドで安全に暮らすために今日からできることをご紹介します。

 

車のドアを大きく開けない

家の中や、モールの中は、ある程度安全が確保されていますが、外出時は様々な経済レベルの人が同じ空間にいます。車のドアや家のドアを大きく開けて、無理やり侵入される恐れが全くないとも言い切れません。

 

夜遅くに一人で出歩かない

ビジネス都市・グルガオンでは、インドの女性も夜遅くまで食事に出かけられるようなモールやレストラン街が増えてきていますが、夜間の一人移動は避けた方が良いでしょう。

 

むやみに知らない人に話しかけない

英語やヒンディー語の練習のために街の人々に話しかけて、トラブルに巻き込まれる旅行者は少なくありません。

 

信頼できる人をそばにおく

契約ドライバーやメイドさんで信頼のできる人に出会えたら、長期でお仕事を依頼することで避けられるトラブルも多いでしょう。

 

貴重品をおもむろに出さない

日本にいると無防備になってしまうことも多いですが、貴重品は肌身離さず持ち歩くことでインドで残念な気持ちになることも避けられます。

 

ご紹介したポイントは、決して珍しいものではなく、海外で生活するならば意識すると良い基本的な事項です。言い換えれば、これらを意識しているだけでインドでも大きな事件に巻き込まれる可能性を回避できるということになります。

 

まとめ

日本のテレビで映されるインドの印象は、未だ深刻な治安状況や、経済格差を強調するものがメディア、ソーシャルメディアに取り上げられる傾向にありますが、多いように感じます。このような状況は事実ではあるものの、一方で、Palette編集部が拠点を置くビジネス都市・グルガオンでは、「インドで安全に暮らす」方法を見つけ、楽しくインド生活を送る日本人が性別問わず数多く活躍しています。

日本とは大きく異なる文化や習慣を持つインドでは、様々な思想や経済状況の人々が共に暮らしています。治安について不安視する声も多い一方で、その事件内容や気をつけるべきポイントは、日本で暮らす人々と大きく違わないと言えます。

パンデミックが落ち着き、2022年の現在、インド旅行を予定する方も増えているのではないでしょうか。治安問題に怯えすぎることなく、当たり前の対策をとり、安全で楽しいインド生活を送れる日本人が増えることを願います!

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