E-Commerceすなわち電子商取引(以下、EC)という言葉や販売チャネルは、今や日本でもすっかり定着しましたね。日本だけでもその市場規模は200兆円近いものとなっており、益々日々の生活になくてはならない存在になっていると感じている方も多いのではないでしょうか?最近では、このECの存在感はさらに強いものとなり、セブンアンドアイなどではオムニチャネルと呼ばれるネットとリアルの商取引の融合を目指す取り組みがあったり、今やECの代表格として認知されているAmazonが世界でさらにシェアを拡大したり、逆にリアルの店舗を展開したりと日々目まぐるしく変化しています。
ネットで買い物をすることに慣れ、便利さを手放せない人がいる一方で、その便利さを維持するには無視できない機能やインフラの存在感がいかに大事かも理解しておく必要があるかも知れませんね。とりわけ日本においては、Amazonとヤマト運輸などが相反するような存在になりつつあるような報道がなされますが、それだけ物流機能の充実こそがEC発展の大きな要となっているということの裏付けでもありますね。その他にも、そもそものネット環境や流入経路の確保、商品を提供する側の意識改革等すべてをシンクロさせてようやくその“便利さ“が開花される意外にも複雑な存在なんですね。
知られざるインドEC市場の実態
インドでもECの存在感は高まりつつあります。先の話で触れたように、ECにとってはネットの環境や交通インフラ、物流ネットワークの確保などは必要不可欠なのですが、それがまだまだ不十分なインドにおいては私たちが普段気にもしなかった問題点に直面することだってあるのです。ただし、裏を返せばそうした問題点が徐々に解決されていけば、この国のECのプレゼンスや利便性などは爆発的に向上するのです。そうした未来のために、インド国内のECサイト大手各社はサービスの提供、顧客満足度向上のために日々インフラや決済システム、様々なポイントに対して投資を続けているのです。下記は、国内ECのシェアですが、インドにおいてはFlipkartというサイトがトップシェアを誇っており、次いでSnapdeal、Amazonという構図となっております。日本といえば、楽天・Amazonの2強、アメリカではAmazonの一強、中国ではアリババとその国々によって強い弱いは分かれているんですね。ただし、ここインドのEC市場の成長率は他国を大きく上回る値であり、利用者や市場規模は今後も加速度的に拡大していく予想となっています。昨年2016年のThe Economic Times発表の予測値では、2019年までの成長率は68%増、ユーザー数は現在の5000万人から3億2000万人にまで拡大するであろう予測が立てられており、いかにその市場がまだまだ潜在的な可能性を秘めているかを思い知らされるものとなっています。
まずは、この3大ECサイトについて少し見てみましょう。
Flipkart
2007年インドで始まったスタートアップ企業です。創業者はサチン・バンサル氏とビニー・バンサル氏の2名。2名ともインドの名門インド工科大学(IIT)を卒業しているいわゆるエリートさんなんですね。そんな二人はなんと、元アマゾンの幹部なのです。アマゾンで得たノウハウやインドならではの商習慣、生活様式などに合わせこれまで順調に成長を遂げてきました。アマゾン同様に設立当社は書籍の販売をメインに展開しておりましたが、その後徐々にビジネスの幅を拡大していき、今では多種多様な製品を展開すると共に、ユーザー数も2000万人を超えるところまで成長してきているのです。
最近では、eBAYからの5億ドルを超える資金調達にも成功しており、それのみならずマイクロソフトや中国のテンセントなどからも巨額の資金調達を受け、今後さらにインド首位の地位を圧倒的なものにしようと画策しています。
Snapdeal
こちらはFlikartから遅ればせながら2010年に設立したまだまだ新しい会社です。クナル・バール氏とロヒト・バンサル氏の共同設立によって出来た企業ですが、同社はFlipkartやAmazonとは異なり、当初は共同購入サイトといういわゆる一般的なECサイトとは少し違った路線のビジネスモデルを作っていたのです。そこから、他社同様に徐々にユーザー数を増やし、商品数も増やし、またソフトバンク、アリババ、フォックスコンといったアジアの巨大企業からのこれまた巨額の資金調達を元手に今のビジネスへと変化・成長させてきたのです。ユーザー数は今では2500万人以上とも言われ、インドにおいても最も勢いのあるECサイトとして認知されているようです。
Amazon
日本人であればすでに多くの人が知っている存在ですね。ジェフ・ベゾス氏が今から20年以上前にもなる1994年にアメリカで立ち上げた企業です。本国アメリカや日本においてはその存在は極めて身近なものであり、多くの日本人も一度は利用したことがあるのではないでしょうか?EC界の巨人としてでなく、今ではより幅広いビジネスを手掛ける名実ともに世界を代表する企業へと成長して来ました。
そんなAmazonがインドに目を付けたのはかなり最近。Snapdealよりもさらに3年も遅い2013年なのです。豊富な成功体験と確かなノウハウがあったにも関わらず、同社が進出をためらった理由は何だったのでしょうか?こちらは後程触れるとして、そんな3番手プレイヤーも徐々にインド国内でのシェアを伸ばし、さらなる投資で近々食料品のネット販売なども開始する予定です。
AmazonはいかにしてEC界の巨人となったのか?
The President, Chairman and CEO of Amazon.com, Mr. Jeffrey P. Bezos calling on the Prime Minister, Shri Narendra Modi, in New Delhi on October 03, 2014.
ECにとって必要なものとして触れたポイントを世界で最も早く完成させたのがAmazonと言っても過言ではないでしょう。その最たるものが、物流。日本において同様ですが、主要な立地に倉庫を置き、その他にも中継地点を細かく作ることで、どの場所に対しても迅速な対応が出来るように物理的なメリット・デメリットをなくすことを目的に投資をし続け、見事成功させました。こうすることで、出荷体制を整えるのはもちろんの事、返品に対しても可能な限り柔軟に対応できるようになったのです。それだけにとどまらず、この物流ネットワークをフル活用できる物流業者が日本においてはこの上ないほど充実していたというのも成功要因の一つでしょう。例えば、翌日には家に商品が届くというAmazon Primeのサービスも、目と鼻の先に倉庫と商品があっても、それを家まで届けてくれる人がいなければ話は成立しません。物流担当者が対応できるだけ存在するからこそ成り立っている話なのです。これを考えると、物流業界の人手不足がいかに深刻であり、私たちの普段の生活に影響を及ぼしうるかが良く分かりますね。倉庫機能ももちろんのこと、今のAmazonの倉庫はオートメーションの固まりとも言え、あらゆる商品をコンピューターが管理することによって、迅速かつ的確な在庫管理等が実現できているわけです。
このようにサービスを滞りなく、かつ最高の状態で提供するためには必要不可欠な存在がいくつかあり、そうしたポイントを的確に把握し、同社は愚直に投資を続けて来たわけです。
だからこそ!Amazonのためらい
だからこそ、Amazonがこの潜在市場に進出するにあったってためらう部分も多くあったのです。比較的最近まで進出出来なかった理由がここにあったのですね。では、最大の阻害要因とは何であったのか?それは、Amazonが強みとしてみたビジネスモデルを完全に捨てないといけないという市場の成熟度にあったのです。
つまり、ECを展開するにはあまりにもまだ成長途上過ぎたのです。人口ピラミッドだけみると、人口の6割以上が35歳よりも若いという市場なので、こうした現実はビジネスにとっては追い風となるケースが多いです。しかしながら、ECの要となるネット環境となると一転します。インターネットの普及率は3割とも4割とも言われており、都市部ではほとんどの人がスマホを持っていたものの、それでもまだまだ足りなかったのです。さらに、以前の高額紙幣廃止問題の時にも少し取り上げましたが、この国はまだまだ現金至上主義の国なのです。決済するとなっても、クレジットカードがない、銀行口座を持ってないという人が大半だったのですから、進むべき道のりがいかに険しく長いか想像に易いでしょう。
Amazonは結局、すべてを捨てインドの市場においては一からビジネスシステムを再開発することにしたのです。すでにFlipkartやSnapdealの存在があったにもかかわらず、それでも一から作りこむべく、小売業者のECに対する意識の変革を地道に行ったり、ECを始めるにあたってのサポートをAmazon側が徹底的に行ったりという取り組みを皮切りにスタートしました。もちろん、物流面での工夫も怠ることはせずに、一貫した物流サービスのプラットフォームをアメリカや日本同様に作り上げ、倉庫をはじめとする物流拠点も国内のいたるところに作り上げました。多くの配送業者ともパートナーシップを結び、着実にインドでも同様のサービスを提供できるだけの下地固めをここ数年の間に行ってきました。
インドEC改革に必要な3つのコト
Amazonが進出してきた2013年から4年が経ち、たかだか4年の間にも随分とECを取り巻く環境やECに対する意識は変わってきました。それでもまだまだ、足りていない部分が多いのも事実です。なぜなら、例えばAmazon Primeに登録して靴を一足買ったとします。配送までには運が良ければ翌日配送となりますが、たいていの場合は1週間掛かってしまうからです。これでは、Primeの意味合いを考えなければならなくなってしまいます。Amazon自身も、今後さらなる物流ネットワークの構築が必要!と述べています通り、インドのEC市場は完成というにはまだ早すぎます。予想にあったように、今後3億以上の人々が生活の一部としてごく普通にECを使うという環境を作り出すには、
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都市部、農村部問わずに同じものが手に入るには、どこであってもモノを届けられる為の道が必要ですが、それさえも完全とは言えないのがインドです。道が出来、物流の拠点が万遍なくでき、それをオペレーション出来る人・実際に届ける人が揃えば、物はスピーディかつ的確に届けられるようになるでしょう。高額紙幣問題が出てからというもの、電子決済の利用者も爆発的に増え、銀行口座を持つ人も農村部でさえ増えたと言われております。言うまでもなく時間のかかる作業であるとは思いますが、あと数年もすればオンタイムでモノが届くシステム、本当の意味でもPrimeが出来上がっているかもしれませんね。